先日、1週間前から前足部の第2・3足趾間が痛いという20歳台女性が初診しました。前足部の局所所見は、少し腫脹しているもののはっきりしたものではありません。
単純X線像でも、明らかな異常所見をみとめませんでした。う~ん、何なんだろう??? 患者さんには正直に、よく分からないのでしばらく様子をみましょうと伝えました。
すると、昨年と同じだと思ってきたのですが・・・とおっしゃれれます。???と思ってカルテを遡ると、ちょうど1年前に私が診察しているではないですか!
しかも、カルテには中足骨頭間滑液包炎と記載されていました。再度診察すると、まさに中足骨頭間滑液包炎を疑う所見でした。
たしかに、ちょうど1年ほど前に、中足骨頭間滑液包炎がマイブームだったことを思い出しました。続けざまに患者さんの診断をつけて、浮かれていたのです。
こりゃまいったな、1年前の自分に勝てなかったようです。記憶力の減退が原因なのですが、医師という仕事は、不断の努力の積み重ねであることを改めて認識しました。
日整会誌90: 1017-1022 2016に興味深い論文がありました。
周術期におけるSSI予防のための管理・対策 です。以下に要旨を記載します。
米国では人工関節置換術後の手術部位感染(surgical site infection:SSI)の発生数・発生率は増加傾向ですが、国内では人工関節置換術のSSI発生率は約0.8%と下げ止まっています。
一方、脊椎手術のSSI発生率が増加傾向にあり、脊椎固定術で約1.6%と人工関節の倍の発生率です。整形外科手術の中では、脊椎インスト手術はSSIリスクの高い術式のようです。
一般的に、SSIリスクは汚染細菌量と細菌毒性に比例し、宿主免疫に反比例すると考えられています。SSI予防のためには、手術部位の汚染細菌量を減らす努力が重要になります。
まず、消毒ですが、現存する消毒薬はいずれも殺菌能に限界があるため、どんなに丁寧に消毒しても、消毒直後から一定の割合で細菌が再増殖することを前提にする必要があります。
特に粘着ドレープ無しの場合、細菌の再増殖スピードは顕著です。このため、術中に粘着ドレープが剥がれている部分に触れることは、汚染リスクを高めます。
そして、ライトハンドル、吸引管などさまざまな手術器具は汚染されており、術野周囲の器械台は、時間依存性に細菌量が増えていきます。
更に、バイオクリーンルームや宇宙服の有用性は、近年になって疑問視されています。驚くべきことに、生理食塩水による術野洗浄のSSI予防効果にも、エビデンスがないとのことです。
一方、希釈イソジン洗浄は、脊椎領域の2つのRCTで中等度のエビデンスがあるようです。2014年のCDCの改定ガイドライン草案でも、希釈イソジン洗浄が推奨されています。
SSI原因菌で最も多いのは、人工関節置換術・脊椎インスト手術ともにMRSAです。しかし、VCMの単剤使用ではMSSAによるSSIリスクが高まるため、セフェム系との併用が推奨されます。
2002年のPerlらの報告において、MRSA感染の成立は鼻腔由来である可能性が示唆されています。そして鼻腔保菌者は全身保菌率も高くなることが知られています。
そのため、鼻腔保菌者に対して鼻腔だけではなく、ヒビテンによる全身薬浴を同時に行うことで、深部SSIを予防できたという下記の報告があります。
Preventing surgical-site infections in nasal carriers of Staphylococcus aureus.
Bode LG, Kluytmans JA, Wertheim HF, Bogaers D, Vandenbroucke-Grauls CM, Roosendaal R, Troelstra A, Box AT, Voss A, van der Tweel I, van Belkum A, Verbrugh HA, Vos MC.
N Engl J Med. 2010 Jan 7;362(1):9-17.
実際、英国では国をあげて取り組んだ結果、MRSA-SSIが、2004年の25%から2014年の5%まで改善したそうです。日本では保険収載されていないのが残念ですが注目するべき対策です。
最後に、脊椎手術のSSI対策としてVCMパウダーが注目されていますが、安全性が確立されていないため、安易な使用には慎重になるべきとのことでした。
先日、近所の整形外科開業医から2歳児の診察依頼がありました。
前日、父親に左手を引っ張られてから動かさなくなったとのことです。
そして、当日の午前にその整形外科開業医を受診したのですが、肘内障の整復操作をしてもはっきりとした整復感を得ることができなかったようです。
当院初診時に、患児はある程度左肘を動かしていますが、まだ痛みが残存しているようです。両肘関節に視診上での差異が無いことを確認した上で、小児肘内障の整復操作を施行しました。
何度か繰り返すと、ようやく鈍いクリックを触知しましたがいつもと様子が違います。う~ん、何かおかしい・・・。念のため、もう少し継続すると今度は比較的はっきりしたクリックを触知しました。
城東整形外科の皆川先生の論文にもありましたが、一度肘内障を発症すると輪状靭帯や周囲の軟部組織が腫脹するそうです。
数時間以内に整復されている通常例でも軟部組織が腫脹するぐらいなので、1日経過したものでは相当輪状靭帯周囲が腫脹しているものと推察されます。
このためなかなか輪状靭帯が整復されず、整復操作も一度で完全には成功しなかったのでしょう。診断も含めて1日以上経過している小児肘内障は要注意だなと感じました。
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