先日、ド・ケルバン病(De Quervain病)に対する腱鞘切開術がありました。ド・ケルバン病は、長母指外転筋腱(APL)と短母指伸筋腱(EPB)の第1コンパートメント内での絞扼障害です。


手術はエピネフリン入りキシロカインによる局所麻酔のみでターニケットによる駆血は不要です。橈骨茎状突起部の圧痛がある部位の直上にAPLやEPBと直交する約2cmの皮切を加えます。


皮膚の直下に橈骨神経浅枝があるので、皮切の段階で損傷しないように注意します。皮下を鈍的に剥離すると第1コンパートメントを形成する腱鞘を展開できます。


この腱鞘をできるだけ背側縁で軸方向に鋭的に切開すると、肥厚した腱鞘の下にAPLを認めます。切開する部位を背側縁とするのは術後のAPLやEPLの掌側脱臼を防ぐためです。



APL破格 - コピー




上の画像のようにAPLは2~3本程度に分かれているケースが多く(ほとんどのケースで2本以上のAPLが存在する印象です)、EPBと間違わないようにする必要があります。


APLの腱鞘を切開しただけで手術を終了するケースがあります。しかし、第1コンパートメント内にEPBだけの独立した腱鞘が存在する場合には、この腱鞘も切開しないと症状が残存します。


ド・ケルバン病を発症する方の多くは、第1コンパートメント内にEPBだけの独立した腱鞘が存在するので、基本的にはEPBの独立した腱鞘を切開することが手術の最大の目的となります。


この目的を達成するためにも、開放した腱が本当にEPBなのか、APLの破格ではないのかを母指の動きで確認することが重要だと思います。


くれぐれも、APLの腱鞘を切開しただけで満足して手術を終えるのではなく、第1コンパートメント内のEPBの独立した腱鞘もきっちり切開するべきだと思います。




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