先日、30歳台男性の方から、突然の尿閉で困っているとの相談を受けました。腰椎椎間板ヘルニアはあるようですが、L4/5高位なので余程のことが無い限り排尿障害は併発しません。


しかし、泌尿器科を受診しても神経原性の排尿障害としか診断してくれなかったようです。毎日自己導尿せざるを得ない状況に陥り、ほとほと困っているようでした。


整形外科的な観点からは理解不能な病態だったのですが、神経内科を受診すると多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)という診断がなされました。


なるほど・・・、多発性硬化症であれば中枢神経のどんな症状が出現してもおかしくありません。私は多発性硬化症の患者さんを過去に一度だけ初診で診察したことがあります。


そのときの病変は頚髄で、MRIで脊髄空洞症との鑑別が問題になりました。しかし、ご存知のとおり、多発性硬化症は空間的多発性と時間的多発性が特長です。


(軽度なのですが・・・)頚椎椎間板ヘルニアに起因した脊髄空洞症と考え、頚椎前方除圧固定術を検討していましたが、なぜか症状が自然寛解して、画像所見も改善してしまいました。


違和感を覚えて神経内科に診察依頼したところ、頭部MRIで脳に多発性の脱髄巣があったため、多発性硬化症の診断がつきました。



このように、多発性硬化症は多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患です。日本では特定疾患に認定されている指定難病ですが、根本的な治療法が無い状況です。


整形外科的知識では説明できないような麻痺症状のある患者さんを診察した際には、多発性硬化症の可能性も頭の片隅に置いておくべきかもしれませんね。



       ★★★  管理人 お勧めの医学書  ★★★

自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。




                     


                  
Critical thinking脊椎外科