昨年、骨・関節術後感染予防ガイドライン2015が改定されました。
何点か興味深い内容があったので、ご紹介させていただきます。









清潔手術のSSIの原因菌がどこからくるのかという問題


クリーンエアシステムによりSSI発生率が9.5%から1.1%に減少したCharnleyの報告から、術中の落下最近などの外因性細菌によりSSIが発症すると考えられてきました。


しかし、感染部位から得られたSSIの原因菌(黄色ブドウ球菌)と鼻腔内の黄色ブドウ球菌が遺伝的に高頻度に一致するという報告が2編あります。


このことから、SSIの原因菌が術中の落下細菌などの外因性感染以外にも患者自身の保菌に由来する内因性感染の存在が示唆されるようです。




バイオクリーンルーム


最近、人工関節手術において層流設備(バイオクリーンルーム)を使用していた群の方が、SSIの発生率が高かったとする報告が複数の国からありました。


このことからバイオクリーンルームは術野周囲の環境により、SSI発生率については逆効果になる場合もあるようです。


しかし、これらの報告に基づいてバイオクリーンルーム使用をGrade Dにすると大問題になります。このためガイドライン策定委員会はGrade I(判断不可能)にした印象を受けました。




密閉式術衣着用



日整会プロジェクト調査によると、SSI発生率は脊椎instrumentation手術では密閉式術衣着用ありで9.5%、なしで3.4%と優位に密閉式術衣着用群で高値でした。


人工関節置換術でも密閉式術衣着用群でを着用していた群が有意にSSIの発生率が高かったとの報告があります。


バイオクリーンルームの否定ほどにはインパクトは無いですが、影響が大きいためにガイドライン策定委員会がGrade I(判断不可能)にした印象を受けます。




骨・関節術後感染予防ガイドライン2015でGrade Dにされてしまうと、判断能力の無い司法によって、とんでもない事態が引き起こされてしまいます。


正直に言って人工関節手術を生業にする者としては、仮にGrade Dになっても密閉式術衣着用の使用を中止することは選択し難いです。しかし、使用によって訴訟の標的にされます。


自らの身を守るのか、患者さんの利益(?)を守るのかは難しい判断です。そのような事態に発展しないようにガイドライン策定委員会の先生方には考慮していただきたいところです。





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