先日、ド・ケルバン病(De Quervain病)に対する腱鞘切開術を行いました。ド・ケルバン病は、長母指外転筋腱(APL)と短母指伸筋腱(EPB)の第1コンパートメント内での絞扼障害です。


手術はエピネフリン入りキシロカインによる局所麻酔のみでターニケットによる駆血は不要です。どうしても出血が気になるようであれば、術中にターニケットを追加することも可能です。


10分程度の駆血時間であれば、患者さんもさほど苦痛は無いと思います。橈骨茎状突起部の圧痛がある部位の直上にAPLやEPBと直交する約2cmの皮切を加えます。


皮膚の直下に橈骨神経浅枝があるので、皮切の段階で損傷しないように注意します。皮下を鈍的に剥離すると第1コンパートメントを形成する腱鞘を展開できます。


この腱鞘をできるだけ背側縁で軸方向に鋭的に切開すると、肥厚した腱鞘の下にAPLを認めます。切開する部位を背側縁とするのは術後のAPLやEPLの掌側脱臼を防ぐためです。



APL破格 - コピー




上の画像のようにAPLは2~3本程度に分かれているケースが多く(ほとんどのケースで2本以上のAPLが存在する印象です)、EPBと間違わないようにする必要があります。


APLの腱鞘を切開しただけで手術を終了するケースがあります。しかし、第1コンパートメント内にEPBだけの独立した腱鞘が存在する場合には、この腱鞘も切開しないと症状が残存します。


ド・ケルバン病を発症する方の多くは、第1コンパートメント内にEPBだけの独立した腱鞘が存在するので、基本的にはEPBの独立した腱鞘を切開することが手術の最大の目的となります。


この目的を達成するためには、開放した腱が本当にEPBなのか、APLの破格ではないのかを母指の動きで確認することが重要です。ただし、術中に正確に確認することは意外と難しいです。


腱を引き出しても母指がほとんど動かないので、母指の動きではAPLやEPBの区別ができないのです。代わりに各腱が停止する部位で腱のレリーフ触知して判断すればよいと思います。


  • 長母指外転筋腱(APL): 第1中手骨基部
  • 短母指伸筋腱(EPB):    基節骨基部


術野でAPLやEPBをエレバトリウム等で引っ張りだして緊張をかけます。腱に緊張を掛けると母指は動かないまでも、それぞれの骨の停止部付近で腱のレリーフを蝕知できるのです。


くれぐれも、APLの腱鞘を切開しただけで満足して手術を終えるのではなく、第1コンパートメント内のEPBの独立した腱鞘もきっちり切開するべきだと思います。




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