脳脊髄液減少症という疾患をご存知でしょうか?名前や存在はご存知の方が多いかもしれませんが、実際に患者さんを診て治療を行った経験のある方は少数派だと思います。


かく言う私は、「硬膜に穴があいて脳脊髄液が漏れる疾患なんだろうな」とう漠然としたイメージしかありませんでした。


ときどき、交通事故の「むち打ち症」の多くは脳脊髄液減少症が原因である、という週刊誌のトンデモ記事を見かけることはありますが、他人事というスタンスでした。


しかし、この疾患について相談を受ける機会があったので、調べてみた結果をシェアさせていただきます。


まず、脳脊髄液減少症は、脳脊髄液が脳脊髄液腔から漏出することで減少し、頭痛・めまい・耳鳴り・倦怠感などの様々な症状を呈すると言われている疾患です。


2002年に、当時は平塚共済病院・脳神経外科部長であった篠永医師によって初めて提唱されましたが、しばらく注目を集めることはありませんでした。


しかし、2006年に脳脊髄液減少症を事故の後遺障害として認める司法判断が下された結果、むち打ち症=脳脊髄液減少症という報道がなされて世間の関心が一気に高まりました。


一方、脳脊髄液減少症は国際疾病分類には記載されておらず、現状では保険病名でさえもありません。つまり、脳脊髄液減少症と言われている患者は、日本にしか存在しないのです。


統一的な診断基準が存在しないことも、混乱に拍車をかける原因となっています。また、多くの症例で客観的な画像所見が無いことも、疾患の存在を疑問視する一因となっています。


そして、大きな外力が加わるスポーツ外傷後では、脳脊髄液減少症と診断されることはほとんどないそうです。 なぜか、交通事故でしか発生しないことが問題を複雑にしています。


このようなことが背景にあるため、多くの脊椎外科医や脳神経外科医は、外傷性の脳脊髄液減少症に対しては、その存在自体を疑問視しています。


一方、特発性の脳脊髄液減少症に関しては、少数ではあるものの実際に存在するようです。これらの症例ではブラッドパッチが著効することもあります。なかなか興味深い病態ですね。







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