本日は少し重い話題です。
エホバの証人を信仰している患者さんは、宗教上の理由で輸血を拒否されます。


エホバの証人の信者は、日本に約20万人ほどいます。目の前の患者さんがエホバの証人である確率は0.2%未満ですが、長い医師人生の中では誰もが1回は関わっているはずです。


日常診療で大きな問題を起こすことは無いですが、手術や内視鏡・カテーテル手術などの侵襲的な治療を行う際に、患者さんがエホバの証人であることは問題となります。


短絡的に「エホバの証人を信仰する患者さん=輸血をしなければよい」とはいきません。絶対に輸血できないということは、治療の選択肢を著しく狭めるからです。


輸血する可能性が極めて低い手術であっても安心はできません。医療においては何が起きるか分からないので、常に退路を確保する必要があります。


エホバの証人に関する裁判で、医療側を委縮させる原因となったのは、エホバの証人輸血拒否事件での最高裁の判決です。


この事件で最高裁判所は、手術で救命のために輸血をする可能性のあるときは、そのことを患者さんに説明し、手術を受けるか否かは患者の意思決定に委ねるべきであるとしました。


そして、手術が成功したにもかかわらず、その説明を怠った医師は患者の人格権侵害について不法行為責任があるされました。  


この事件の教訓は、医師は輸血を拒否する患者の自己決定権を尊重し、患者に自己決定権行使の機会を与えなければならないということです。


注意点は、医師が患者の意思に従って無輸血下での手術をしなければいけないわけではないことです。したがって、医師や医療機関が採り得る選択肢は以下の2つとなります。


  1. 輸血することを明確に説明して患者に自己決定の機会を与え、患者が拒否した場合には治療を断る
  2. 患者の意思に従い無輸血下手術を行う


②の場合は、手術時に一般的な注意義務を尽くしている限り、患者が出血死しても医師は法的責任を免れると考えられています。



では、実臨床において、私たちはどのように対応すれば良いのか? やはり誠実に①の対応を実行することだと思います。治療説明を行った上で、判断は患者さんに任せるのです。


実務的には輸血同意書の提出が無い場合には、治療ができないことをはっきりと伝えるべきでしょう。これだけでトラブルのほとんどは回避できます。


中途半端な対応を採ると、輸血同意書が無くても治療可能な医師と認識されて情報が共有される傾向にあります。そうなると普通の医師以上のリスクを抱え込むきっかけとなります。


特に小規模な場末病院勤務の場合には、このあたりのことはよくよく考えておく必要があります。安易に対応して取返しのつかないリスクを抱え込むことの是非を考えましょう。






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