日経メディカルで興味深い記事がありました。リポート◎臨床や研究とは異なる第三のキャリアパスを示す 慶應大が「起業する医師」の育成に本腰 です。




 臨床か研究か、という二択にとらわれない新しいキャリアパスを、医師の卵たちに示す。大学医学部がそんな取り組みに力を入れ始めた。先駆けとなっているのは慶應義塾大学医学部だ。「イノベーションに関する知見を持ち、起業もためらわない」――。そんな人材を育てようとしている。


 2017年に開設100年という節目を迎えた慶應大学医学部が、起業家精神を持つ人材の育成に本腰を入れ始めた。専門のタスクフォースを設置し、教育や研究、組織などあらゆる面から、起業やイノベーションを促す施策を打ち出している。


 これを象徴する取り組みが、2016年度から始まった「慶應義塾大学医学部 健康医療ベンチャー大賞」だ。医学部発ベンチャーを100社創出する――。そんなうたい文句を掲げ、学生や社会人が健康・医療分野の独創的なビジネスプランを競うコンテストだ。 第1回「慶應義塾大学医学部健康医療ベンチャー大賞」の決勝大会で挨拶する、慶應大学の岡野栄之氏。


 大学医学部がこうしたビジネスコンテストを開催するのは、全国でも初めての試み。2017年3月に開催された決勝大会では、慶應大学医学部長(当時)の岡野栄之氏が挨拶に立ち、大学にもイノベーション創出や課題解決の役割が求められるようになったと開催趣旨を説明した。


 「大学に独創的なアイデアがあるなら、それをイノベーションや起業につなげることが求められる。研究や教育が起業につながり、それが再び研究や教育につながるというポジティブな循環を生み出したい。GoogleやAppleのようなベンチャーが我々の支援から生まれたと、いつか言えるようにしたい」。岡野氏はこう意気込みを語った。岡野氏は再生医療研究の第一人者であると同時に、慶應大医学部内に知財・産業連携タスクフォースを立ち上げるなど、医学部発のイノベーション創出に力を入れている。自ら医療系ベンチャー「サンバイオ」の創業に携わった経験も持つ。


 コンテストの募集テーマとして例示されているのは、創薬や遺伝子、医療介護連携、ビッグデータ、人工知能、スマートフォンアプリ、ウエアラブルデバイスなど。医療の姿を大きく変えていく可能性のある技術に関するキーワードがずらりと並ぶ。病院内で提供する医療にかかわるものに限らず、医療・健康に資するアイデアを幅広く募集する。社会人部門と学生部門があり、それぞれの優勝チームには賞金のほか、メンタリングなどを通じた起業支援などの副賞が贈られる。


 第1回健康医療ベンチャー大賞には、計70チームが応募。社会人部門と学生部門の事前審査を通過した各部門5チームずつが、2017年3月の決勝大会で優勝を競った。食事の際に歯の裏に小さなチップを貼り付けるだけの減塩技術「ソルトチップ」を提案したチーム「L Taste」が社会人部門、訪日外国人向けの遠隔医療相談サービスを提案したチーム「Doc Travel」が学生部門をそれぞれ制した。


 このコンテストの運営を担ったのは、岡野氏が立ち上げた知財・産業連携タスクフォース。アカデミア(学界)と産業界の連携を進めたり、イノベーション創出やベンチャー起業を支援したりする役割を担う。「イノベーションの創出はいまや大学の責務。医療には現場目線で解決すべき課題が多く、だからこそ医学部発のイノベーションが求められている。健康医療ベンチャー大賞では、大学発ベンチャーをどれだけ生み出せるかということ以上に、恐れず起業できる人材を育てることに主眼を置きたい」。慶應大眼科教授で知財・産業連携タスクフォース長を務める坪田一男氏は、このように狙いを語る。


 健康医療ベンチャー大賞は医学部発の取り組みだが、慶應大の他学部も開催に協力しており、全学を挙げたイベントという位置付けである。審査員には理工学部や環境情報学部、経済学部などの教員も名を連ねる。今後はこのイベントを発展させ、企業と連携してイノベーション創出に向けたコンソーシアムを立ち上げることも視野に入れているという。




教育プログラムにも経営の視点を導入


 慶應大医学部がこうした取り組みに乗り出した背景には近年、研究成果の実用化という役割が大学に求められるようになったことがある。2015年には学校教育法が改正され、大学の役割として「研究成果を広く社会に提供することを通じ、社会の発展に寄与すること」が盛り込まれた。国の予算配分にもそうした考えが反映され、予算獲得にも実用化を見据えることが必要条件となりつつある。医療分野の研究開発を支援する日本医療研究開発機構(AMED)も、実用化を意識して予算を配分する傾向が明らかだ。


 起業家精神の育成は、医学部生のキャリア開発の側面からも重要な意味を持つという。「医学部生の進路はこれまで、基本的には臨床か研究かの2つに限られていた。これからはここに、起業という新たな道が加わる。実際、起業に関心を持つ学生は増えつつあり、私の研究室にレジデントで入る学生の2~3割はアントレプレナーシップ(起業家精神)を専門に学ぶことを希望している」と坪田氏は話す。


 慶應大医学部は健康医療ベンチャー大賞以外にも、起業文化の醸成に向けた様々な取り組みを進めている。産業創成のための専門部署を立ち上げることを検討しているほか、教育プログラムにも起業家育成を意識した要素を取り入れる。例えば、医学部とビジネススクールが協力し、大学院に健康医療分野のイノベーションに関する副科目を作ることを検討中だ。医学部生にとっては経済学や経営学を学ぶ場になり、ビジネスを学んできた学生にとっては医学分野のイノベーションのシーズを知る機会になる。 慶應大学の坪田一男氏は「これからはインベンションとコマーシャリゼーションの両方が分かる人材を育てたい」と話す。


 こうした取り組みを主導する坪田氏自身、2015年にアンチエイジング医学を手掛けるベンチャー企業「坪田ラボ」を起業した経験を持つ。現在は慶應大学のビジネススクールに通い、経営学修士号(MBA)取得を目指しているという。


 坪田氏は、「医学部が得意としてきたのはインベンション(発明)。これにコマーシャリゼーション(商業化)を掛け合わせなければ、イノベーション(技術革新)は生まれない」と語る。また、現状について、「臨床や研究の領域には、既に教育コンテンツが豊富にあるが、イノベーションの領域はそうではない。我々が医学部でイノベーションを教える最初の世代になると考えており、そのためのカリキュラムやコンテンツの作成に力を入れていきたい」とも言う。


 健康医療ベンチャー大賞は2017年度に、第2回を開催することが決まっている。11月19日に応募を締め切り、1次・2次選考を経て2018年1月28日に決勝大会を開催する。第1回開催時には「慶應の所属者または卒業者がチーム内にいること」を応募の条件としたが、今回はその条件を除外。イノベーションを幅広く募集する観点から、誰でも応募できるようにしている。





この記事を拝読して清々しい気持ちになりました。特に。下記のフレーズには感銘を受けました。




医学部生の進路はこれまで、基本的には臨床か研究かの2つに限られていた。これからはここに、起業という新たな道が加わる




確かに、医学部に入学する時点で臨床か研究という道しか無かったことは、私にとっても大きな不満でした。これに味付けするとしても開業するか勤務医のままか、ぐらいです。


これらのキャリアパスの問題点は、社会に還元する力が小さいことだと感じています。臨床医として腕を振るっても、自分の時間の上限というガラスの天井があります。


つまり、救える数(患者数)は、ひとりの医師ではたかが知れています。研究者の場合、発見や発明が社会に大きな影響を与える可能性もありますが、極めて稀なケースです。


この意味で大学教授や病院経営者は、医師個人よりも大きな影響を社会に及ぼすことができるので、価値が高いと考えます。何だかんだ言っても大学教授はすごいと思います。


しかし、大学教授になるためには才能や努力だけではなく運も必要です。しかも定員があるため、ほとんどの医師にとって大学教授は非常に狭き門です。


一方、医師の起業は誰にでもチャンスがあります。成功すれば富や名誉だけでなく、社会貢献もできるからです。うまくいけば、大学教授よりも良い影響を与えることも可能です。


もちろん、ほとんどのスタートアップはダメになるでしょうが、医師の場合は経済的に安定しているので、多少失敗しても一生傷になることはありません。


このように起業を目指す医師がたくさん出てくれば、日本の医療界はもっともっと元気になると思います。そして、このような道を開いた慶應大学はさすがだと言わざるを得ません。


現実的な話では、東京大学等の官立大学が起業の旗振りをすると、各方面からのバッシングが予想されます。その点、私学の雄である慶應大学は、最適な役回りといえそうです。


金融資産投資や不動産投資もいいですが、資産形成から少し離れた視点で起業を考えてみるのも面白いと思います。アイデアを社会の発展に役立てるのは素晴らしいことですから!





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