Medical Tribuneで興味深い記事がありました。横浜市立大学市民総合医療センター 心臓血管センター部長の木村一雄先生による 生と死の狭間で循環救急医療を考える です。


 

 終末期医療の重要性が認識されて久しい。全ての疾患がこの対象となり、病状の進行速度により急性型(救急医療など)、亜急性型(がんなど)、慢性型(高齢者、認知症など)に分類される。この中で主に筆者が専門とする循環器疾患、特に循環器救急疾患では集中治療の成否により結果として危機的状況から生還できることや、一方では治療にも反応せず終末期医療を行わざるをえないこともある。このように最近まで元気であった患者がまさに生死を分ける状況に陥ることを少なからず経験する。そのため、高度医療を行う際には、短期的な延命を求めるが故の弊害についても考慮し、マニュアル通り画一的なものでなく個々の患者ごとに対応していかなければならない。また、不幸な転機をたどる可能性が高くなった折に、この事実を説明した際の家族の動揺についても適切に対応していかなければならない。しかし高度救命医療という名の下では、特に若手医師においてこのような点に関する教育が十分になされていないのではないかと危惧する。


 20代の女性で結婚して1カ月、感冒に罹患した数日後に心不全を発症し当院へ救急受診し入院となった。血圧64/45mmHg、脈拍76/分、 ショック状態を呈していたが意識は清明であった。心電図では心室調律、QRSは0.14秒と延長し、心エコー図では左室は全周性に浮腫状で壁運動は高度に低下していた。救急外来での検査、一般的処置中にも徐々に血行動態は不安定となり経過から劇症型心筋炎の診断および生命維持のためにPCPS(経皮的心肺サポート)の挿入が必要であるという判断は容易であった。


 しかし、PCPSの挿入を継続するには安静を保つ必要があり、患者に多大な苦痛を与えることになるため鎮静下に人工呼吸管理を行うことが一般的である。このため、通常であれば鎮静下で直ちに気管内挿管を行うが、この時点で家族はそろっていなかった。また、私を含め4名の医師は患者の病状を考えると救命できない可能性が高いと判断した。このため、苦痛を軽減するなかで最後の会話の時間をいかに長くつくるかということを目的とした医療行為を主眼に置いた。もちろん、救命をあきらめたわけではない。気管内挿管の準備を進め、医師を待機させた状況で家族に現状を話した後に面会を終え、2時間後に人工呼吸管理下に置いた。これが実質最後の会話となり、その後、心電図波形、バイタルサインは回復することなく心電図上QRS波形も認められなくなった。


 また、バイタルサインを維持するために大量の補液を行いさらに血管内から体液の透過性亢進によるむくみが高度となり特に顔面で顕著になった。劇症型心筋炎では急性期を乗り切ることで病前と同じ程度まで回復する症例を少なからず経験しており、この時点のカンファランスで「このまま積極的治療を継続する」「中止する」の相対する意見に分かれた。最終的には病状の進行の速さ、血液生化学データの高度異常などから生命維持を目的とした治療から強力な利尿を行い、病前の姿に近づくことを目的とした治療方針の変更を多職種で決定した。結果として集中治療を行ったにもかかわらず数日後に亡くなられたが、少なくとも病気と壮絶に闘ったという姿を外見上はほぼ見られない状態で家族に面会していただくことができた。


 循環器救急疾患は突然発症することが多く、また、循環呼吸状態が悪い患者では人工呼吸管理を行うことも多いが、鎮静が必要で、家族との会話をはじめ意思の疎通ができなくなることもある。一方、人工呼吸管理が遅れて状態が悪化し、これが一因となり救命できなくなることもある。また、この病態では高サイトカイン血症などにより血管透過性が亢進し、高度な浮腫を生じた状態で亡くなられることもある。  循環器疾患では迅速な高度集中医療により劇的に病状が改善することも多く、我々のチームでは"never give up"を治療理念としている。しかし、ただ短期間の延命を求めるために結果として外見が大きく変貌するようなことを行う医療は正しいのだろうか。一方、このような時期を乗り越え救命できる患者が存在するのも事実である。安易なあきらめは許されない。


 高度な医療機器や薬剤が使用される現在の循環器救急医療では患者の尊厳を維持し、家族らの気持ちに配慮しつつ"never give up"の理念の下で診療することが重要であると考える。





ここまで考えて治療に対応できることは、本当に凄いことだと思います。生命に関わることが少ない整形外科ではちょっと考えにくい状況です。


このような状況では、何が正解か分かりません。確かに高度医療に関わる医師が、短期的な延命を求めるが故の弊害についても考慮して対応できれば素晴らしいことだと思います。


しかし、このような名人芸は、やはり相当の臨床経験を積んだベテラン医師でしか難しいのではないかと感じました。若手医師では消化不良をおこしそうな気がします。


そんなことを思いながら読み進めると、最後に「患者の尊厳を維持し、家族らの気持ちに配慮しつつ"never give up"の理念の下で診療することが重要である」と締めくくられました。


う~ん、これはすごい・・・。シビレました。久しぶりに感動したのと同時に、自分も襟を正して頑張らねばいけないなと感じました。





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