Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
遠隔トリアージで手指外傷の救急が円滑に です。




 手指切断などの重度手指外傷の治療は緊急を要するが、搬送先の医療施設の決定に時間を要することがある。この問題を解決するため、愛知県では現場の救急隊員が患者の画像データをトリアージ担当病院に電子メールで送信、トリアージ担当医が重症度を判断して適切な医療機関のレベルを指示するInteractive teletriage system(以下、遠隔トリアージ)を導入している。
 



専門施設に患者が集中


 石井氏によると、手指切断などの重度手指外傷の救急医療は、疾患の特殊性から治療可能な医療機関が限られる上、救急隊が現場で重症度を的確に判断することが難しい。また、専門施設以外の医療機関は軽症例でも受け入れを拒否することがあるという。そのため、限られた専門施設に患者が集中して受け入れが困難となり、患者の"たらい回し"が発生することがある(今学会での別の発表によると、愛知県下で手指切断として救急受け入れ要請があった症例のうち、搬送先施設で実際に手指切断と診断されたのは68.9%、うち再接着術が施行されたのは23.1%にすぎなかった)。


 名古屋市では年間100~150例の手指外傷救急患者が発生しているが、その約半数は1回の救急要請で収容先が決定している一方、収容先決定までに5回以上の要請が行われたケースも約1割存在するという。救急要請回数が増えるほど、救急隊の現場滞在時間も長くなり、9回以上のケースでは約1時間に及んでいる。




患者の画像データを電子メールでトリアージ担当病院に送信


 そこで、限られた医療資源の有効活用の観点から、各患者に対する専門治療の必要性を判断し、患者の状態に合わせて最適な医療機関に搬送すべく、2011年に名古屋市内で遠隔トリアージを導入した。これは、次のようなシステムだ。

  1. 医療機関を手指外傷に対する専門性に基づいて5段階に分類しておく
  2. 救急隊が重症度の判定に困った場合、患者の外傷部位の画像データを電子メールでトリアージ担当病院である名古屋大学病院に送信する
  3. トリアージ担当医が重症度を判断し、適切な医療機関のレベルを指示する
  4. 救急隊は指示されたレベルの医療機関に受け入れ要請を行う  言い換えると、専門的治療を必要としない患者を一般病院に搬送することによって、専門病院の負担を軽減することが最大の眼目である。2014年には、このシステムを愛知県全域に拡大した(トリアージ担当病院は全3施設)。 




搬送時間短縮も、残る課題


 今回、石井氏は遠隔トリアージ導入前後の状況を比較することで、その有効性を評価した。その結果、患者収容要請回数は導入後に有意に減少、救急隊の現場滞在時間も平均22.3分から18.1分に有意に短縮した。


 しかし同氏は、効果は限定的と指摘。現システムの問題点として、①平日9~17時の運用だが、手指外傷の約3割はそれ以外の時間帯に発生している②救急要請はトリアージ後に救急隊が個別に行わなければならない―を挙げた。


 新たなシステムの構築も進められている。愛知県では昨年度(2017年度)にNTTデータ社が運営する救急搬送システムETISを導入したが、今年度から手指外傷患者にも適用される予定だという。新システムは、①救急隊から画像を含む患者情報を地域内の病院に一斉送信②各病院は受け入れ可能状況を入力③救急隊は受け入れ可能病院の中から搬送病院を選定―するというもの。遠隔トリアージとETISを組み合わせることで、手指外傷例の救急搬送がさらに円滑化されることが期待されるという。





名古屋大学・手の外科グループの仕事です。非常に画期的な取り組みだと感じました。ハードではなく、手の外科医と受け入れ施設を組織するソフト面の工夫であることがミソです。


これはさすがに力のある大学が旗振り役にならなければ実現しないことですね。電子メールという既存のインフラを利用しているところがいいと思いました。


後半でNTTデータ社の救急搬送システムが紹介されていますが、こちらはパッケージ化されていていかにも重そうです(笑)。


私的には、NTTデータ社のようなハードに重きを置いたシステムではなく、名古屋大学・手の外科グループのソフト面に重きを置いたシステムの方が好感を持てます。


今回の取り組みは一種の遠隔医療であり、高価なハードが無くても、高度の人的資源さえあれば、何でもできるという一例だと思います。


尚、今回の問題点で挙げられていませんが、トリアージする医師の報酬はどうなっているのでしょうか? しっかり予算を確保している体制であれば、素晴らしいと思います。








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