Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
【Essay】脳神経外科同時通訳ブースより です。




  タイトルを見て、脳神経外科医が同時通訳とはどういうこと?と思われたかもしれません。日本脳神経外科同時通訳団は、日本脳神経外科学会学術総会や日本脳神経外科コングレス総会などで同時通訳を担当するユニークな補佐組織で、私はその団長を約15年間務めています。団員は全て脳神経外科学会の学会員、すなわち、脳神経外科医です。多くの医学会がグローバル化に対応して、抄録や発表スライドを英語に限定したり、英語での発表を義務付けたりしています。脳神経外科学会では、1987年に同時通訳団結成の機運が高まり、最初は外国留学歴5年以上の医師十数人の勉強会からスタートしました。現在、約50名が活動しています。


 大きな学会ではシンポジウムが幾つも組まれ、招待された外国人演者が参加するケースが多いと思います。同時通訳団の役割は、彼らが日本人シンポジストのプレゼンテーション(日本語)を理解し、座長やフロアからの質問や討論(通常は日本語)にスムーズに答えたり、コメントができるよう支援することです。シンポジウム自体を英語で行う方法もありますが、そうすると往々にして語学力がネックになり、討論の深みが不十分になることを経験していらっしゃると思います。母国語での討論の方が、より実り多いdiscussionになるのは自明の理です。


 同時通訳のブースは、学会場の後方、あるいは2階に設置されます。通常3〜4名でチームを組み、ブース内で発表スライドを見ながら、日本語を英語に訳した音声を外国人演者に送っています。レシーバーをつけた外国人演者が日本語の質問や討論の内容を正しく理解し、的確な発言をしてくださるのが大きな喜びですが、確実に伝えられているかどうか、常に大きなプレッシャーを感じているのも事実です。


 脳神経外科医が同時通訳をする意義はどこにあるでしょうか。重要なのは、同じ脳神経外科医が行う発表なので、スライド内容を容易に理解できるだけでなく、場合によっては次のスライドの内容が推測できるという点です。これは、一般のプロの同時通訳者には不可能であり、脳神経外科医自身が同時通訳を行う最大のメリットといえます。また、学会員に同時通訳団の存在がよく知られているため、ともに活動したいという若手脳神経外科医が多く、いい意味での「グローバル化」に貢献できる点も挙げることができます。


 同時通訳団は、毎年1泊2日の夏期研修会を開催し、英語をブラッシュアップします。研修会には10~20名の若手脳神経外科医が新たに参加し、同時通訳のトレーニングや実践を積んだ上で、シニアメンバーが採点を行い、新しく通訳団に加わるメンバーを決めています。正式な通訳ブースを4つ用意し、実際に使用するのと同じレシーバーを用います。参加者は皆、ある程度英語に自信を持っています。しかし発表スライドを見ながら日本語プレゼンを英訳し、空白をつくらずマイクで話すのはかなり大変な作業です。空白時間は一種の禁忌で、同時通訳は音声を発し続けることが原則です。毎年、初回の実践トレーニング直後は、ブース内が新人の悲鳴とため息であふれます。トレーニング後はtrainerもtraineeもぐったりとなりますが、通訳スキルの獲得だけでなく、英語学習への意欲が飛躍的に高まる、充実した2日間です。


 通訳団メンバーが日ごろから実践しているトレーニングを2つ紹介しましょう。1つはnative speakerの英語を聞きながら0.5秒遅れで声に出して再現する「シャドーイング(shado­wing)」。もう1つは日本語の論文を読みながら、冒頭からどんどん英語に訳していく「サイトトランスレーション(sight trans­lation)」。日本語は肯定・否定が最後にくる、ということにこだわっていては同時通訳は務まりません。これらを毎日最低15分は行うのを目標にして、英語能力を磨く努力をしています。


 また、「読みやすいスライド」は同時通訳もしやすい、ということがよく分かります。7行ルールと呼ばれる大きなフォントを用いること、スライドの背景が明色なら文字は暗色、暗色なら文字は明色を使うことなど、スライド作成についてもいろいろ学ぶ点があります。  脳神経外科の同時通訳がどのように行われているか興味がある方は、夏期研修会を見に来ていただくとその様子がよく分かると思います。他科の先生でも見学OKです。研修会幹事の許可をいただければ、同時通訳ブースでのわくわく体験の機会もあるかもしれません。We al­ways welcome you.





恥ずかしながら、学会で医師が同時通訳するという発想自体が無かったです。たしかに、岡山大学の伊藤教授のおっしゃられるように、専門医の方が有利な面があります。


いくら医学的知識に富んだプロの同時通訳者といっても、専門的知識に関する理解の深さは比較になりません。医学素人の通訳を介さずに外国人と意思疎通できることは理想的です。


私自身、hearingだけなら学会で不自由を感じたことはないですが、speakingとなると確かに通訳者の力を借りて日本語で話す方が真意が伝わりそうです。


いずれにせよ、このような同時通訳団が存在することは、脳神経外科学会にとって好ましいことだと思います。整形外科学会にも同時通訳団があるといいですね。








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