先日、知り合いから健診での転移性肺腫瘍の見落としで相談を受けました。企業健診で胸部X線像を毎年施行していますが、血便で精査したところ消化器がんが見つかったようです。


あとから確認すると、昨年の胸部X線像ではわずかに転移性腫瘍の所見がありそうです。毎年企業健診をしているにもかかわらず、発見が遅れたのは見落としだというわけです。


実際、胸部X線像を拝見しましたが、これをもって精査と言い切るのは少し難しそうです。これで有責とされたら、ちょっと厳しいかもしれません。


この方は60歳台ですが、これまで企業健診をタダで受けられる人間ドッグとみなしていたようです...。このため、企業健診での見落としは医療過誤だと憤慨していました。


ガンに罹患したのは可哀そうですが、企業健診を人間ドックと思うのはいかがなものかと感じました。真剣に早期発見したいのであれば、企業健診で満足してはいけないでしょう。


少し気になったので調べてみると下記のような判例がありました。



定期健康診断は、一定の病気の発見を目的とする検診や何らかの疾患があると推認される患者について具体的な疾病を発見するために行われる精密検査とは異なり、企業等に所属する多数の対象者に対して異常の有無を確認するために実施されるものであり、大量のレントゲン写真を短時間に読影することから考えると、異常を識別するために医師に課される注意義務の程度には限界があり、本件レントゲン写真を読影した医師がAの肺癌の存在を見落とし、異常なしとしたことに過失を認めることはできないとした。



極めて妥当な司法判断だと思います。企業健診などの健康診断は、検診や人間ドックとは明らかに性質や目的が違います。


企業健診は人間ドックの代わりではないことを説明しましたが、あまり納得されませんでした。このような認識の人が居るのは少々コワイ気がします...。






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