先日、大腿骨転子部骨折の手術がありました。コロナ禍のためか、今年の大腿骨転子部骨折患者さんは近年稀にみる少なさです。
久しぶりの患者さんでしたが、いつものごとく当日手術を施行することにしました。正午ごろ入院だったので、17時には手術も終了して帰宅するつもりでしたが...。
なんと、術前検査で下肢に腸骨静脈から膝窩静脈まで連続している大きな深部静脈血栓がみつかりました。それも両側です...。
近位型深部静脈血栓症は致死性肺塞栓症の原因となります。教科書通りであれば、IVCフィルターを留置してから手術ということになります。
しかし、勤務先が場末病院なので循環器内科医師が居ません。IVCフィルターを留置するためには転院することになりますが、すでに受傷から4日経過しており厳しい状況です。
IVCフィルターを留置するとしばらく抗凝固療法を施行する必要があります。超高齢者でもあるので、感覚的にはリスクに目をつむって手術施行がベターに思えました。
このあたりの判断は主治医しかできないので、非常にプレッシャーのかかる局面です。患者さんの予後がどうなるかの確率を考えず、ひたすら安牌(?)な選択肢は転院でしょう。
患者さんの予後を中心にいろいろ検討してみましたが、ここは自分が腹をくくるしかないという結論に達しました。もう一度家族に ICのやり直しです。
肺塞栓症を併発したら致死性となる可能性が高いことを説明したうえで、それでもトータルの生命予後は早期に手術を施行した方が良いことを納得してもらいました。
表面上はご家族が最終判断する体裁ですが、このような場面では主治医の意向が大きな影響を及ぼすことを理解したうえでの患者さん家族への説明となります。
そのような事情が分かっているからこそ精神的なプレッシャーが大きかったですが、幸いにも致死性肺塞栓症を併発せずに乗り切ることができました。
結果オーライでしたが、このような判断を日常的に繰り返していると地雷を踏む可能性が高くなるのは必定でしょう。ハイリスク・ローリターンは医師の宿命なのかなぁ...。
豊富な図や画像が提示されているため、ほとんどの骨折や脱臼に対応することが可能です
それでも早いに越したことはないでしょうが…