整形外科医のブログ

中堅の整形外科医が、日々の気付きを書き記します。投資の成功で働く必要が無くなりましたが、社会貢献のため医師を続けています。

感染

感染でも筋膜は強力なバリヤー

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先日、左股関節部痛を訴える80歳台の方が初診されました。この方は10年ほど前に「股関節骨折の手術を施行している」とのことでした。う~ん、ちょっと嫌な感じです。。。


単純X線像を確認すると、どうやらCHSの術後のようです。しかし、明らかな股関節周囲の骨折は認めませんでした。しかし、左股関節を動かすと苦悶表情を浮かべます。



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一体何なんだろう?念のために創部を観察すると、ラグスクリューの尾部に一致する部位にウズラ卵大の腫瘤を認めました。どうやらラグスクリュー尾部の滑液包炎のようです。


血液生化学検査ではCRP/WBC 2.8/12000でした。穿刺すると少し濁った漿液性液体を吸引しました。培養に提出しましたが、局所所見は感染っぽくないです。


入院してもらい抗生剤を投与開始しましたが、翌日には腫瘤が鶏卵大となり、CRP/WBC 19/18000(!)と劇的に上昇してしまいました・・・


塗抹検査は陰性でしたが、見切り発車で創部の掻破洗浄術+抜釘術を施行しました。術中所見は大腿筋膜上に感染性滑液包炎をみとめたものの、大腿筋膜は破綻していませんでした。


最終的な培養結果はMSSAでしたが、今回の症例では大腿筋膜がバリヤーの働きを果たしていたようです。腫瘍外科では、筋膜をバリヤーとみなしています。


悪性骨軟部腫瘍の症例では筋膜を考慮して切除縁を決定しますが、感染症例においても筋膜は強力なバリヤーとなることを改めて認識しました。








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後医の裁量権を尊重しよう!

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先日、初診外来をしていた際に、前日に時間外受診した患者さんが再診しました。易感染性の基礎疾患がある方で、中指末節骨骨髄炎を併発していました。


発症後2週間ほどで、すでに外科で切開排膿されています。それまで外科外来で延々と創処置を受けていましたが、たまたま前日の担当医師は、他院からの整形外科医でした。


きっと、診察して驚いたのでしょう。できるだけ早期の治療が望ましいので、明日入院準備をして整形外科を受診するように指示したそうです。ばっちりカルテにも記載されています。


私の診察時には、確かに末節骨骨髄炎ではあったのですが、発症してからまともな検査がなされた形跡がありません。培養も提出されていないので、抗生剤の選択も難しい状況です。


客観的にみて、培養結果が出るまでは外来でも対応可能な状況です。しかし、カルテには「要入院」とはっきり記載されています。困ったな・・・


患者さんは入院準備して来られているのですが、入院しても特段やることはありません。人工関節センターを併設しているので、むやみに感染患者さんを入院させたく事情もあります。


今後の治療方針は下記の予定です

  1.  培養に提出して起炎菌と薬剤感受性を同定
  2.  薬剤感受性のある抗生剤を投与
  3.  ある程度感染を鎮静化させた上で、掻破洗浄術を施行


①もできていない段階で、いきなり入院指示を出されると非常に困ります。後医の治療の選択肢を制限してしまう内容は、できるだけカルテに記載するべきではないでしょう。


特に、年次の高い医師は、このことに留意するべきだと思います。経験豊富であるため、自分の治療方針に絶対の自信を持っている医師が多いです。


しかし、治療を行う医療機関の事情まで考慮しているケースは稀です。今回は、以前ご紹介したケースの亜型だと思いますが、後医の裁量権は奪わないように注意したいものです。






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股関節痛で仰臥位を嫌がるの答えは?

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先日、整形外科の常勤医師が居ない病院で夜診をしている際に、興味深い患者さんの診察を行いました。何でも右股関節が痛くて歩行できなくて入院になったそうです。


大腿骨近位部骨折はありませんか? という対診依頼だったのですが、単純X線像では特記する所見はありませんでした。自分で車椅子から診察台に移れる程度の疼痛のようです。


しかし、診察台で仰臥位になってくださいと言っても「痛くて上を向けない」と言って、すぐに側臥位になってしまいます。う~ん、困った患者さんだな・・・


強く仰臥位を促すと、両膝を屈曲位にします。高齢患者さんなのではっきり分からないのですが、膝を伸ばすと右股関節に疼痛が走るようです。ここてピンときて、CTを撮像しました。



腸腰筋膿瘍 - コピー



やはり、図星でした。右腸腰筋膿瘍です。熱発はなく、血液生化学データの炎症値は軽度上昇程度です。総合的に考えると、結核性の腸腰筋膿瘍を強く疑います。いわゆる流注膿瘍です。


高齢者の進展に伴って、腸腰筋膿瘍は比較的ポピュラーな疾患になってきています。私の経験では、年に1~2例ほどのペースで治療している印象です。


しかし、起炎菌は黄色ブドウ球菌や大腸菌等のグラム陰性桿菌が多く、症状・身体所見・血液生化学所見が派手な症例が多いです。今回とは全く状況が違います。


今回の症例では、後から考えるといわゆるpsoas positionをきたしていたのですが、仰臥位を嫌がるので、初見時には分かりませんでした。


「股関節部痛のため仰臥位を嫌がる = psoas position」が、私にとってのTIPSでした。特に流注膿瘍のように、身体所見や血液生化学所見に乏しい症例では注意が必要だと思います。






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ガイドラインからみた抗菌薬の使い方

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日整会誌90: 1031-1035 2016に興味深い論文がありました。
ガイドラインからみた抗菌薬の使い方 です。要旨を下記に記載します。



SSI発生率

  • 人工関節置換術 1.36%
  • 脊椎instrumentation手術 3.73%


原因菌
  • MRSAやMRSEの割合は、人工関節置換術 46%、脊椎instrumentation手術 44%


術前の鼻腔内および全身の皮膚の除菌の有効性
  • ムピロシンによる鼻腔内除菌がSSI発生を低下させる可能性を示す報告が多くみられます。
  • APICの2010年のガイドラインでは、選ばれた手術にMRSA保菌者の除菌を行うとしています。
  • 除菌方法としてムピロシンの鼻腔内塗布1日2回+2~4%クロルヘキシジン(ヒビテン)の全身浴を術前5日間施行とあります。


抗菌薬の1回投与量
  • 標準投与量を推奨
  • CEZでは、体重80kg以上で2g、体重120㎏以上で3gを推奨する勧告があります。


投与間隔
  • CEZの場合、2~5時間ごとに追加投与して組織内濃度を有効域に保つ必要があります。


投与期間
  • 耐性菌の増加を防ぐために、術後48時間以内を推奨


抗菌薬の選択
  • ブドウ球菌に対して抗菌活性が強く安全性の高いCEZが第一選択


抗MRSA薬の予防投与の適応
  • MRSA保菌者に対しては、鼻腔の除菌+β-ラクタム系薬+VCM
  • β-ラクタム系薬を併用するのは、VCMのMSSAに対する抗菌力がやや弱く、グラム陰性桿菌に対する抗菌力が無いからです。




ガイドラインを拝読した私の感想は、鼻腔内除菌が再評価されていることに対する驚きでした。頻回に易感染性の患者さんの手術を担当する私としては、今後検討したい課題です。






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周術期SSI予防のトピックス

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日整会誌90: 1017-1022 2016に興味深い論文がありました。
周術期におけるSSI予防のための管理・対策 です。以下に要旨を記載します。


米国では人工関節置換術後の手術部位感染(surgical site infection:SSI)の発生数・発生率は増加傾向ですが、国内では人工関節置換術のSSI発生率は約0.8%と下げ止まっています。


一方、脊椎手術のSSI発生率が増加傾向にあり、脊椎固定術で約1.6%と人工関節の倍の発生率です。整形外科手術の中では、脊椎インスト手術はSSIリスクの高い術式のようです。


一般的に、SSIリスクは汚染細菌量と細菌毒性に比例し、宿主免疫に反比例すると考えられています。SSI予防のためには、手術部位の汚染細菌量を減らす努力が重要になります。



まず、消毒ですが、現存する消毒薬はいずれも殺菌能に限界があるため、どんなに丁寧に消毒しても、消毒直後から一定の割合で細菌が再増殖することを前提にする必要があります。


特に粘着ドレープ無しの場合、細菌の再増殖スピードは顕著です。このため、術中に粘着ドレープが剥がれている部分に触れることは、汚染リスクを高めます。


そして、ライトハンドル、吸引管などさまざまな手術器具は汚染されており、術野周囲の器械台は、時間依存性に細菌量が増えていきます。


更に、バイオクリーンルームや宇宙服の有用性は、近年になって疑問視されています。驚くべきことに、生理食塩水による術野洗浄のSSI予防効果にも、エビデンスがないとのことです。


一方、希釈イソジン洗浄は、脊椎領域の2つのRCTで中等度のエビデンスがあるようです。2014年のCDCの改定ガイドライン草案でも、希釈イソジン洗浄が推奨されています。


SSI原因菌で最も多いのは、人工関節置換術・脊椎インスト手術ともにMRSAです。しかし、VCMの単剤使用ではMSSAによるSSIリスクが高まるため、セフェム系との併用が推奨されます。


2002年のPerlらの報告において、MRSA感染の成立は鼻腔由来である可能性が示唆されています。そして鼻腔保菌者は全身保菌率も高くなることが知られています。


そのため、鼻腔保菌者に対して鼻腔だけではなく、ヒビテンによる全身薬浴を同時に行うことで、深部SSIを予防できたという下記の報告があります。



Preventing surgical-site infections in nasal carriers of Staphylococcus aureus.
Bode LG, Kluytmans JA, Wertheim HF, Bogaers D, Vandenbroucke-Grauls CM, Roosendaal R, Troelstra A, Box AT, Voss A, van der Tweel I, van Belkum A, Verbrugh HA, Vos MC. N Engl J Med. 2010 Jan 7;362(1):9-17.



実際、英国では国をあげて取り組んだ結果、MRSA-SSIが、2004年の25%から2014年の5%まで改善したそうです。日本では保険収載されていないのが残念ですが注目するべき対策です。
 

最後に、脊椎手術のSSI対策としてVCMパウダーが注目されていますが、安全性が確立されていないため、安易な使用には慎重になるべきとのことでした。 






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