昨年末に大腿骨近位部骨折の手術を施行した受け持ち患者さんが、この1ヵ月ほどで徐々に悪化しました。具体的には傾眠傾向となり脱水を繰り返すのです。
認知症の患者さんでは、1日の周期が長くなったり、食思不振になるケースを散見します。この患者さんも認知症の一症状が出ていると認識していました。
しかし、覚醒状態だけではなく血圧低下、徐脈、低体温が出現するに至ったため、甲状腺機能を精査したところ、著明な甲状腺機能低下症を認めました。
後追いで検証すると、入院時(受傷時)の ERでも傾眠傾向だったため、頭部CTを施行していました。このことから、その時期には甲状腺機能低下症が存在していたのでしょう。
しかし、この方にはたくさんの基礎疾患があり、これまでかかりつけ内科医師の治療を継続的に受けていました。
甲状腺機能低下症に関しては、私たち整形外科医が治療する時点で、ほとんどの症例で発見・治療されているものと認識していました。
このため、診療録や紹介状をみて甲状腺機能低下症の病名が存在しないと「甲状腺機能低下症は無い」と勝手に思い込んでいました。
ところが今回の症例では、大腿骨近位部骨折を受傷した時点で、甲状腺機能低下症の症状があったにもかかわらずスルーされていたものと思われます。
もちろん、私自身がもっと早い段階で気付くべきだったのですが、内科医師にかかりつけであっても、甲状腺機能低下症が放置されていることもあることを学びました。
外来診療の気付き
東洋経済オンラインで興味深い記事がありました。実験で新事実「ウレタンマスク」の本当のヤバさ です。ややキャッチーなタイトルですが、ウレタンはダメだなと実感しました。
東洋経済オンラインより転載
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一先生の研究によると、結果は上グラフのごとくでウレタンマスクがほぼスカスカであることが分かります。
飛沫の飛散防止の観点では、ウレタンマスクは全く意味が無いようです。このグラフがリアルワールドでも近似しているとすれば、ウレタンマスク=マスクしていない、と同義です。
たしかにウレタンマスクの人は非常に呼吸が楽そうです。不織布マスクでボクシングを 1ラウンドすると海底に居るほど苦しくなりますが、ウレタンマスクの人は全然平気です。
ウレタンマスクがスカスカで意味の無いことが実験的に示されたわけです。この事実は、私たちの日常診療に重要な示唆を与えます。
それは、ウレタンマスクの人はマスクをしていない人として扱う必要があることです。ウレタンマスク患者さんは飛沫が飛びまくるので、フェイスシールドが必須となります。
日整会広報室ニュース第124号で興味深い記事がありました。東京女子医科大学名誉教授の伊藤達雄先生による「紹介状は書いた医師のレベルが知れる」です。
若手医師の紹介状の内容に対して苦言を呈しておられ、伊藤先生が推奨している診療情報提供書の記載内容が列記されていました。
患者紹介状は受け取る医師が何科であろうと斟酌せず、
- 患者の人柄、職業、家族
- 病歴のポイント、当科の診断・検査所見および治療
- 入院時と退院時の身体所見の比較、手術所見など
- 現在の問題点と今後の治療方針、ゴール設定、患者の希望など
について簡潔・明瞭に記す。重要な画像、検査のコピーを添える。そして自科のみで通じる外国語の略語は絶対に使わない
、とおっしゃられています。①~④すべてを完璧に記載するのは、多忙な臨床では厳しい印象を受けますが、基本的な姿勢としては見習うべき点があると思いました。
おそらく①④に関しては、リハビリテーション科医師の立場から記載された内容と推察しますが、特に②③に関しては簡潔に記載して後医への情報伝達をしたいものです。
先日、高齢者が右股関節部痛の主訴で受診しました。施設入所中の方で認知症があり、転倒歴は不明とのことでした。
施設内で人知れず転倒していた等のパターンはありがちなので、さしあたって単純X線像を撮像したのですが、明らかな異常所見を認めません。
身体所見として、右鼠径部を押さえると少し痛がります。しかし、右股関節の回旋時痛や軸圧痛は無いようです。
大腿骨近位部不顕性骨折の可能性もあるためMRIを施行しましたが、特に異常所見は無いようです。おかしいな???
熱発は無かったのですが、結晶性関節炎を疑ってMRIと同時に採血依頼もしていました。データを確認すると、CRP / WBCがそれぞれ18mg/dL / 18000/μLもありました。
よく診察すると、右鼠径部というよりも、もう少し中枢方向のMcBurney点に近い印象です。腹部CTではみごとに回盲部の炎症がありました。いわゆる虫垂炎ですね...。
股関節だけみていると「1週間ほど様子をみましょう」と言うところでした。初めての経験でしたが、右股関節部痛の鑑別診断として、虫垂炎も考える必要がありそうです。
Medical Tribuneに興味深い記事がありました。
創洗浄はタラタラ洗えばよい。石鹸を使うと再手術率が増える! です。
日常診療で外傷をどのように洗ったらよいのか、その解答(FLOW試験)がNew Engl J Med(2015; 373: 2629-2641)に掲載されています。
- 洗浄の水圧(高、中、低)と再手術率の間に相関はない!
- 石鹸で洗うと生食で洗うより再手術率が高くなる!
つまり、「創はふつうに生理食塩水(生食)でタラタラ洗えばよい、開放創1㎝以下なら生食3L、1cm超えていれば6Lで洗浄です。石鹸の使用はやめておきましょう」 ということです。
これは驚きの論文です。今までの常識が覆されました。挫滅創の患者さんが救急搬送されたら、勢いよく水道水で洗浄して、汚染度合いが強いと石鹸を使用することもありました。
正直言って、石鹸を使用した過去の症例の成績が悪い印象はありません。しかし、RCTの結果だけに無視するわけにはいきません。
これからはできるだけ、勢いは付けずに、かつ石鹸は使用せずに創部をしようと思います。しかし、工場内事故などの油成分の多い症例は本当に石鹸無しでいいのかな???
ちなみに、本日手指挫傷の患者さんが受診したのですが、おもわず石鹸での手洗いを指示してしまいました...。一度身についた習慣はなかなか修正できないものです。
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