昨年末に大腿骨近位部骨折の手術を施行した受け持ち患者さんが、この1ヵ月ほどで徐々に悪化しました。具体的には傾眠傾向となり脱水を繰り返すのです。
認知症の患者さんでは、1日の周期が長くなったり、食思不振になるケースを散見します。この患者さんも認知症の一症状が出ていると認識していました。
しかし、覚醒状態だけではなく血圧低下、徐脈、低体温が出現するに至ったため、甲状腺機能を精査したところ、著明な甲状腺機能低下症を認めました。
後追いで検証すると、入院時(受傷時)の ERでも傾眠傾向だったため、頭部CTを施行していました。このことから、その時期には甲状腺機能低下症が存在していたのでしょう。
しかし、この方にはたくさんの基礎疾患があり、これまでかかりつけ内科医師の治療を継続的に受けていました。
甲状腺機能低下症に関しては、私たち整形外科医が治療する時点で、ほとんどの症例で発見・治療されているものと認識していました。
このため、診療録や紹介状をみて甲状腺機能低下症の病名が存在しないと「甲状腺機能低下症は無い」と勝手に思い込んでいました。
ところが今回の症例では、大腿骨近位部骨折を受傷した時点で、甲状腺機能低下症の症状があったにもかかわらずスルーされていたものと思われます。
もちろん、私自身がもっと早い段階で気付くべきだったのですが、内科医師にかかりつけであっても、甲状腺機能低下症が放置されていることもあることを学びました。
全身管理
最近、高ナトリウム血症をきたした症例を連続して経験しました。原因はよくわかりませんが、おそらく脱水を契機に併発したものと考えています。
そのうちの 1症例は、169mEq/lもありびっくりしました...。おそらく意識障害があるのでしょうが、高度のせん妄に対する心療内科的治療のために判断がつきません。
担当のベテランの美人看護師さんが「ここ数日活気が無い」「血圧がやや低め」と伝えてくれたおかげ精査することになりました。さすがです...。
ご存知のように、高ナトリウム血症を放置すると昏睡から死に至ります。脱水がベースの高ナトリウム血症は補液で治療しますが、補液の種類には注意が必要です。
脱水症状が前面に出ている場合には 1号輸液から開始しますが、そうでない場合には 5%ブドウ糖液を投与します。患者さんの状態をみながらですが、500ml/日ペースが一般的です。
血液中のナトリウム濃度を急速に下げると、急激な浮腫と脱髄によって重度の脳損傷を引き起こす危険性があるため、ナトリウム濃度はゆっくりと補正していきます。
幸い、大きな問題なく高ナトリウム血症を補正できましたが、心療内科で本格的に鎮静されている患者さんは、注意が必要であることを痛感しました。
先日、私の受け持ち患者さんが嘔吐したとのことで、病棟のベテラン美人看護師さんから連絡がありました。
入院患者さんの嘔吐は珍しくありません。それなのに何故わざわざ直電してくるのでしょうか??? 理由を訊くと何となく普段と違う気がするとのことです。
実際に患者さんを診に行きましたが、ちょっと黄色いかな?と思う以外は、それほど重篤感はありません。まぁ、とりあえず採血してみようと気軽にオーダーしました。
ところが、血液生化学検査結果を見て目を見張りました。WBCが4万近くあるではないですが! T-Bilも4mg/dLを超えています...。
急いで腹部CTを撮像したところ、総胆管結石のようで胆のうがパンパンに腫れています。CRPもヤバイことになっていたので、すぐにドレナージの必要がありそうです。
私なら、ご本人の様子を一瞥しただけではスルーしてしまいそうです(苦笑)。ベテラン看護師さん恐るべしです。
やはり、看護師さん(特にベテラン)の言うことは素直に聞いておこう...。
先日、術後2日目の患者さんの呼吸状態が突然(?)悪化しました。
早朝の検温時に、SaO2=80%前半に低下していました。HR>100/分で頻脈もあります。
幸い、意識障害や呼吸苦などは無く、傍目にはそれほど重篤感はありません。それでも主治医的にはかなり焦ってしまいます。これは PEを併発したかな...。
人工関節術後患者さんなので、術前にDVTが無いことを確認したうえで術後1日目からリクシアナを経口投与しています。しかし、そんなことでは何の安心感もありません。
かなり前に重篤な 症候性PEを経験したのですが、最近は忘れていました。そこで、ザザッと PEについてのおさらいをしました。まず症候性 PEの代表的症状は下記2つです。
- 呼吸不全
- 頻脈
この2つがそろっている術後患者さんは PEを念頭に置いて検査を迅速に進めるべきでしょう。そして、検査は下記を行います。
- 胸部CT、Xp
- 心エコー、下肢静脈エコー
- 血液生化学検査
- 動脈血ガス
上記には比較的迅速に施行可能だと思います。特に心エコーでの右心負荷の有無は確認したいところです。誤嚥性肺炎の可能性もあるので胸部CTは必須でしょう。
高齢者は腎機能低下している方が多いので、造影CTを施行するか否かは状況しだいですが、心エコーで右心負荷(-)なら無しでもいいかもしれません。
そんなこんなでワタワタと検査してみましたが、結果的には PEではなく肺炎を併発していたようです。高齢者の人工関節置換術後の呼吸不全はこちらの心臓にも悪いですね...。
手術当日に患者さんが熱発することはときどきあります。このような時にどのような対応をすれば良いのでしょうか?
私はの場合は、予定手術と準緊急手術の2パターンに分けて考えています。まず両パターンとも診察して本人の様子を確認することは必須です。
通常は熱発しているだけで症状に乏しいことが多いです。この場合、THA や TKA などの予定手術の場合では血液生化学検査、胸部Xp、インフルエンザ迅速検査を行います。
検査結果がほぼ正常の場合には、ご本人およびご家族と協議して当日の手術を施行するか否かを話し合います。多くの患者さんは当日の手術を望まれる印象があります。
スキップした場合には 1週間ほど待機しますが、あまりに待機時間が長いと患者さんもイライラするので注意が必要です。
一方、大腿骨近位部骨折のような準緊急手術の場合には、SaO2をはじめとするバイタルが安定しているようであれば、38度オーバーでも手術を敢行することにしています。
さすがに呼吸状態が不安定な場合には止めますが、呼吸状態が安定していれば決行です。待機してもロクなことはないので、この場合だけは主治医としてリスクを取ります。
重度の肺炎を併発しているのでなければ、手術を施行すると解熱していくことが多いです。
幸い不測の事態は発生していませんが、いつもヒヤヒヤしています。
カラーバス効果かもしれませんが、手術当日の熱発は比較的多い印象です。患者さんの精神状態も関係しているのでしょうか???
主治医としては悩みどころですが、無用なリスクは取らないものの、患者さんのために必要なリスクは取りに行くバランス感覚が重要かなと考えています。
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