Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
末期変形性股関節症に貧乏ゆすりが有効 です。


 

進行期・末期の変形性股関節症(股OA)に対する保存療法としてジグリング(貧乏ゆすり様の運動)が有効であるといわれているが、まだ研究報告は少ない。柳川リハビリテーション病院(福岡県)リハビリテーション科の広松聖夫氏は、第90回日本整形外科学会(5月18〜21日)で「ジグリングは、最初、キアリ骨盤骨切り術後の経過不良例に対する後療法として用いていたが、手術に頼らない保存療法としても有効であった」と述べた。


後療法にジグリングを併用  

主に進行・末期の股OAに行われる関節温存手術としてキアリ骨盤骨切り術がある。広松氏らは同手術の成績不良例について、これまで手術手技に工夫を加えて成績向上に努めてきたが、成績不良例をゼロにすることはできなかった。


1970年代にSalterらはCPM(Continuous Passive Motion:持続的他動運動)の概念を生み出し、1980年にウサギの大腿骨非荷重部に軟骨全層欠損を作製し、①ギプス固定群②放置群③CPM群(器具により24時間/日)−に割り付けて観察したところ、CPM群の52%で硝子様軟骨が再生したと報告した(J Bone Joint Surg Am 1980; 62: 1232-1251)。


この研究をヒントに同氏らは、キアリ骨盤骨切り術後の成績不良例にCPMを用いることを考えた。動物実験で示された器具による24時間連続CPMをそのまま臨床に用いることは不可能なため、代替法としてジグリングを後療法に取り入れることにした。そして、2013年には自動ジグリング器を導入した。


同院では、術後の後療法としてジグリングを行う場合、CPMとジグリングを併用してそれぞれ2時間ずつ、家庭でホームエクササイズとして行う場合は1日2時間を目標としたジグリングを行うという。


ジグリングで関節裂隙が開大  

広松氏らは、①2000年以降に同院でキアリ骨盤骨切り術を行った股OA例の385股のうち進行期・末期例で2年以上の経過観察を行い、術直後に関節裂隙の開大が見られない例または経過中に関節裂隙の狭小化が生じた例(92股)②2016年10月末までに人工股関節置換術(THR)を望まない進行・末期の股OA症例のうち、手術をせずジグリングのみで対応し、6カ月以上経過観察できた141股に対するジグリングの効果を検討した。


その結果、キアリ骨盤骨切り術後の経過不良例に対するジグリングにより、65股(70%)で関節裂隙の開大(2mm以上)が見られた。ジグリング有効群と無効群の患者背景の比較では年齢、術前Sharp角、術前Acetabular-Head Index(AHI)などに差は見られなかったが、術前BMIでは有意差が認められ、有効群でやや高かった。


手術せずジグリングのみを行った症例では43股(30%)で関節裂隙の開大が見られた。有効群と無効群の患者背景の比較では年齢、術前Sharp角、術前AHIなどに差は見られなかったが、初診時にroof osteophyte(臼蓋の骨棘)を有する割合は有効群で有意に高かった。


同氏は、内科的合併症のためTHRができずにジグリングを行った股OA末期の女性(71歳)を紹介。ジグリング開始から1年半後に徐々に関節裂隙が開大し始め、2年11カ月時点で良好な関節裂隙の開大が認められた(写真)。その他、手術をしたくない複数の末期股OA患者でジグリングの効果が認められた症例も提示され、糖尿病合併例、脳性麻痺例、関節リウマチ合併例などでも有効であった。


目標は軟骨の再生 

変形性関節症に対する運動療法の有効性についての研究は、膝関節に関するものがほとんどで股関節に関しては研究自体が少なくコンセンサスがいまだ得られていないのが現状である。2014年に世界初のプラセボを対照群とした、股OAの理学療法に対するランダム化比較試験が行われたが、股OAに対する運動療法(筋トレ、ストレッチを主体とした従来の理学療法)は効果がないどころか若干の有害事象が見られたという結果であった(JAMA 2014; 311: 1987-1997)。


進行期・末期股OAの究極の目標は軟骨再生にあり、軟骨再生が得られれば長期的な症状の改善が期待でき、THRの回避にもつながる。広松氏は「ジグリングはシンプルであるが、股OA治療に新たな視点をもたらすものと考えられるが、まだ未知の要素も残されている」とし、「現在、治療効果に影響する因子の検証、JHEQ(日本整形外科学会股関節疾患評価質問票)、関節裂隙の開大を主要評価項目とした多施設共同研究の準備を進めている」と今後を展望した。





これが○○クリニック院長の書いた一般人向け書籍なら、「出た!」と言う感じですが、柳川リハビリテーション病院の医師が日整会で発表しているので重みが違います。


ジグリングに関しては、過去に 貧乏ゆすりが命を救う? でも話題にしたことがあります。見た目は悪いですが、ジグリング(貧乏ゆすり)は身体には良いのかもしれません。


今回は日整会での講演なので注目が集まりましたが、クリニックや接骨院の間ではジグリングが変形性関節症に対して有効な治療法であることは、そこそこ有名だったようです。


もちろん、THAほどの切れ味の良さは到底望めませんが、手術を回避したり先送りしたというニーズに対しては、減量や筋力トレーニングと同様に有効な選択枝のひとつかもしれません。






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