先日、『ブラック・スワン』のタレブによる反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方を読みました。今回はブラック・スワンと異なり、比較的読みやすい書籍でした。
ナシム・ニコラス・タレブは、ウォール街でデリバティブトレーダーとして長年働き、その後認識論の研究者となりました。
タレブは、以前から金融危機を警告しており、自らの主張に基づいて2007年からの金融危機で数百万ドルの利益を上げたことで、世間からの注目を集めました。
なかなか独創的な視点で興味深いのですが、戦術面というよりも戦略面で役に立つ書籍だと思いました。
そして、今回の書籍を拝読して、今までぼんやりと自分なりに頭の中で考えていた人生における戦略のひとつが、具体的な形で紹介されていることに驚きました。
その戦略とは「バーベル戦略」です。バーベル戦略とは、ハイリスク・ハイリターンの資産とローリスク・ローリターンの資産など対照的な資産を組み合わせる投資手法です。
タレブは、ポートフォリオの85%〜90%を安全性の高い資産に投資し、残りの10%〜15%をリスクの高い投機的資産に投資する手法を推奨しています。
債券投資の場合は、残存期間の短い債券と長い債券を組み合わせる戦略です。株式投資の場合は、大型株と小型株や、バリュー株とグロース株など両極端な対象を組み合わせます。
しかし、単にバーベル戦略を金融資産投資に限局するのはもったいないです。この戦略は、医師のような超安定的な職種に就いている人間にとって、極めて有用な考え方です。
現在の日本において、医師は参入障壁に守られた極めて安定的な立場です。このことは、学業成績が最上位層の高校生達が、東京大学ではなく医学部を目指すことからも分かります。
しかし、医師と言えども本当に盤石な立場なのかは誰にも分かりません。東京電力、東芝、日本航空、シャープ、神戸製鋼などの大企業のように、苦境に陥ることも皆無ではありません。
安定的な立場の医師になったとしても、予測できない悪い偶然(ブラックスワン)によってキャリアが滅茶苦茶になることは起こりえます。
実際にブラックスワンが起こるまで安全ですが、自分のキャリアや時間を医師だけに捧げると、医療業界全体が苦境に陥ったときに取れる選択肢が少なくなるリスクがあります。
ブラックスワンのような予測ができないことに対抗するには、予測できないことが起こったときに、良い結果をもたらしてくれるように賭けておくことが必要です。
具体的には、自分の仕事時間の80%を安定した医師の仕事に費やしつつ、残りの20%の時間で、結果がどうなるか分からない副業や資産運用を行ってみると良いということになります。
ここで重要なのは、副業や資産運用に20%の時間を使って日銭を稼ぐ戦略ではないことです。成功したときに、リターンの上限が青天井となることを志向するべきだということです。
副業や資産運用をしていると、国民皆保険制度崩壊で医師がダメになったときにも、一気に全てがゼロになる状況は避けることができます。 ブラックスワンは予測ができません。
重要なことは、ブラックスワンのような稀な事象が発生する確率を計算することではなく、その事象が起こった時に及ぶ影響を最小限に食い止めることです。
そして仮に安定な医師の収入がゼロになっても、バーベル戦略を採っていれば残り20% の「メシの種」は残りますし、それが青天井のリターンを出してくれるかもしれません。
このように、バーベル戦略は医師や公務員のような安定した立場の人が、その安定性をうまく利用することで、ブラックスワンが発生しても生き残っていける有用な戦略だと思うのです。
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