先日、TKA術後の伏在神経膝蓋下枝損傷の予防に、膝蓋前外側皮切(外側凸の弧状切開)が解決策となる可能性があることを記載しました。
そこで、さっそく先週の TKAで実践してみました。皮膚切開を膝蓋骨から膝蓋腱の外側縁にするだけなので楽勝だと思っていました。
しかし実際には、やや手間取ってしまいました。支帯上まで一気に切開して、脂肪組織内に切り込まないようにして内側皮弁を起こします。
ところが、肝心の脛骨結節部ではどこが支帯なのか少々分かりにくかったのです。仕方なく近位の大腿四頭筋部分で支帯を確認して遠位に展開することにしました。
膝関節内へのアプローチは medial parapatellarで進入しましたが、術中操作の際に内側皮弁が術野に巻き込まれます。このため、TKAではあまり使用しない高さの筋鈎が必要でした。
予想外に苦戦です...。もちろん苦戦と言っても、アプローチを medial parapatellar → sub-vastusに変更するのとは比較になりません。
しかし、内側皮弁が舌のように術野に垂れ込むので、たびたび鬱陶しさを感じる手術でした。もちろん、この皮膚切開で伏在神経膝蓋下枝損傷を回避できれば全く問題なしです。
人工膝関節全置換術
TKA術後の伏在神経膝蓋下枝損傷の存在を知って以来、術後患者を観察していると、不定愁訴と思っていた疼痛や違和感は、結構な頻度で伏在神経絡みであることに気付きました。
リリカを処方すると軽快する症例が多いですが、副作用が強くて十分量を投与できないこともあります。やはり伏在神経膝蓋下枝損傷を予防する手段を考える必要があります。
医中誌を検索すると、TKA後の伏在神経膝蓋下枝に関する論文がいくつかヒットします。この中で皮膚切開をできるだけ外側におく術式が紹介されていました。
伏在神経膝蓋下枝の切離を防ぐことは不可能ですが、皮膚切開を前外側におくことで可能なかぎり外側で伏在神経膝蓋下枝を切離するというコンセプトのようです。
この術式の利点は、伏在神経膝蓋下枝損傷による術後の膝関節痛の緩和だけではなく、ひざまずき動作時の疼痛も緩和できるようです。
術式自体は非常に簡単で、皮膚切開を膝蓋骨から膝蓋腱の外側縁にするだけです。支帯上まで一気に切開して、脂肪組織内に切り込まないようにして内側皮弁を起こします。
そして、膝関節内へのアプローチは通常通りに medial parapatellar、もしくは mid-vastusや sub-vastusとなります。
少々皮膚切開が長くなりますが、術中操作の難易度は変わらないようです。たったこれだけで頑固な伏在神経膝蓋下枝損傷の症状を回避できるのであれば非常に好ましいです。
手術のポイントは、脛骨結節部の皮切が確実に脛骨結節よりも外側になるようにすることです。FTAの大きい症例では、術後に脛骨結節内側に皮切が行きがちなので注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が全国的に増加してきていますが、現在のところ4~5月の緊急事態宣言の頃のような手術抑制はしていません。
このため、人工膝関節全置換術(TKA)も比較的ガンガン施行しています。最近ではすっかりおなじみになった KneeAlign2ですが、TKAには無くてはならないブツになっています。
この素晴らしいデバイスのおかげで、TKAの設置精度が劇的に上昇しました。KneeAlign2の内部の仕組みはブラックボックスですが、とにかく結果は素晴らしいの一言に尽きます。
かなり KneeAlign2に慣れてきたのですが、ますますデバイスの能力に頼るようになってきました。ぶっちゃけた話、KneeAlign2に関してはほとんどテキトーにしていても OKです。
まず、大腿骨顆部へのピン刺入は、大腿骨頭中心部に向けるのが教科書的ですが、10度のずれまで許容されるので、よほど訳の分からない方向に刺入しない限り OKです。
次に脛骨ですが、ブームを脛骨近位関節面のほぼ中央にさえ置けば、その他のことは本当にテキトーで OKです。
当初はデバイスを下腿軸に合わさなければいけないという強迫概念がありましたが、脛骨近位と両顆の 3点のみが大事であることが分かってからはテキトーさに拍車がかかりました。
大腿骨・脛骨とも唯一しっかり確認するべき点は「回旋」です。回旋だけはデバイスで制御できません。回旋だけしっかり確認して、あとはテキトーで問題無しだと思います。
先日、人工膝関節全置換術(TKA)後の伏在神経膝蓋下肢損傷について勉強しました。せっかくなので、入院中の TKA患者さんの膝を伏在神経損傷の視点で再度診察してみました。
すると、何名かの患者さんの膝関節内側に神経痛を疑わせる所見がありました。外側にも軽度の知覚障害があるのですが、内側に tinel signのような疼痛があるのです。
むむっ、これはもしかして伏在神経損傷なのかも...と考えて、リリカを処方することにしました。夜間痛が強いようなので、さしあたって眠前に 75mg投与としました。
初日はリリカ 75mgでは全く効かないようでした。やはり伏在神経損傷というよりも膝関節内部の炎症が残存しているのかもしれないと思いました。
しかし、まだ1日だったこともあり、リリカ 150mg眠前処方を試してみることにしました。翌朝回診したところ「昨日は痛みなくぐっすり眠れました!」とおっしゃられます。
う~ん、TKA術後に残存する膝関節内側の痛みは、術後の炎症ではなく伏在神経損傷だったのか...と複雑な心境になりました。
今回はTKA術後疼痛の原因のひとつとして伏在神経損傷を鑑別診断に入れるべきことを学びました。リリカがTKA術後に効果的な症例があるとは思ってもみませんでした...。
先日、とある中堅医師が「膝関節の伏在神経膝蓋下肢損傷で、膝関節外側しびれが残っている患者さんが居る」と言っているのを小耳にはさみました。
伏在神経膝蓋下肢損傷で膝関節外側のしびれ???この言葉を聞いた私の第一印象です。周知のように伏在神経膝蓋下肢は膝関節内側を下行する知覚神経です。
解剖の本でも、伏在神経膝蓋下肢の知覚支配領域は膝関節内側になっています。この人は伏在神経膝蓋下肢の走行を内外測逆に覚えているんだな(笑)。
その場はそれで終わったのですが、後日になって髄内釘術後に膝関節外側のしびれを併発した症例について調べたところ、ナント伏在神経膝蓋下肢損傷である可能性とのことです!
上図は伏在神経膝蓋下肢の走行を示した解剖ですが、膝蓋腱直上に伏在神経膝蓋下肢が横断しています。なるほど、コイツを損傷するので膝関節外側しびれを併発するのか...。
膝関節外科医にお伺いすると、TKAでも膝関節外側しびれは高率に併発し、髄内釘手術でもそこそこの割合で膝関節外側しびれを併発するようです。
たしかに解剖図をみると、膝関節正中切開でアプローチする手術では伏在神経膝蓋下肢損傷を必発する印象です。
実際には、膝関節外側を触ってみるとちょっとニブイかな?程度の症状なので、患者さん自身が気付かないことも多いです。
山のように TKAや髄内釘手術をしているにもかかわらず、この年になるまで膝関節外側しびれが伏在神経膝蓋下肢損傷であることを知らなかったのはかなり恥ずかしいです...。
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