先日、大腿骨転子部骨折後偽関節の手術がありました。他院で大腿骨転子部骨折に対して髄内釘で骨接合術を施行されましたが偽関節化したため紹介を受けました。
小転子下に及ぶ粉砕した大腿骨転子部骨折で、ラグスクリューがカットアウトしています。まだ比較的新鮮例なので小転子・転子部とも全く骨癒合していません...。
う~ん、往生しそうな雰囲気満載です。この手の手術は、revision THA と primary THA の中間ぐらいの難易度と認識しています。
前回手術の皮切の一部を利用して髄内釘を抜去した後、慎重に股関節を展開しました。大腿骨近位部は、骨折の影響で正常な形態をほとんど留めていませんでした。
初回手術から1ヵ月しか経過していませんが、大腿骨周囲の瘢痕組織形成が高度でした。しかもやたらと出血します。骨膜下に瘢痕組織の切除を施行しました。
多量の瘢痕組織を切除すると何とか大腿骨近位部の形状を確認できました。ステム固定性の役に立たない粉砕した骨片は全て切除しました。想定通りですが巨大な骨欠損です。
大腿骨近位部の骨欠損が大きく骨脆弱性が高度なので充分なトライアルができません。したがって、大腿骨頚部前捻角を通常よりもやや大きめにつけてラスピングしました。
あと、飛び道具としてチェンジャブルネックを利用できるセメントステムを選択しました。これならかなりの前捻角および脚長の補正が可能です。
何とか、無事手術を終了しましたが、やはりこのような症例での人工骨頭置換術は難しいと思いました。もう一度、自らの備忘録として手術の際に気付いた点をまとめておきます。
- 新鮮例では骨癒合していないので巨大な骨欠損となるが骨片は全て切除する
- 新鮮例では大転子以外の偽関節部を術中にすべて切除する必要あるので恐れずにリウエルでどんどん切除する(術前の画像で検討必要)
- 陳旧例では大腿骨近位部が硬化しており、リーミングのエントリーポイントの位置決めが難しい
- 陳旧例では大腿骨髄内のネイル周囲硬化骨の外は脆弱なので容易に大腿骨を穿孔する
- 大転子が偽関節もしくは術中骨折しても表層の軟部組織が保たれているなら温存する。
- 大転子は梨状窩を覆うように内側に転位していることが多いので、髄腔延長線上にある部分は恐れずにリウエルで切除する。
- 外傷後なので軟部組織の弾性が低下している
- ステムはチェンジャブルネックを選択する方が無難
- Surface Replacement の選択肢を残すためTHAにコンバージョンできる体制で臨む
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