先日、アルバイト先で呼吸不全・熱発・腰痛で内科入院しようとしていた70歳台の易感染性(糖尿病の既往)の患者さんを診察しました。このアルバイト先には整形外科の常勤医師が居ません。
内科医師が診察したところ胸部XpとCTで肺炎を認めたので、この患者さんは救急室で病棟に上がるためにストレッチャー上で待機している状況でした。
「腰痛もあるようだから整形外科でも診察頼みます」と言われたので、腰椎・胸腰椎の単純X線像を撮影しました。圧迫骨折も無かったので、特に問題は無さそうな旨を主治医に伝えました。
それから2週間後に、まだ腰痛が続くとのことで整形外科に病棟から診察依頼がありました。圧迫骨折の可能性を念頭に再度単純X線像を施行したところ、目が点になりました。
たった2週間でL1/2の椎間板腔が狭小化しているではないですか!急いで腰椎CTを施行しましたが、L1-2高位の大腰筋に腫脹は認めません。
しかし、矢状断では明らかにL1/2の終板が破壊されています。血液生化学所見でも肺炎が軽快しているにも関わらずCRP/WBC/ESRが正常化していません。
幸い、肺炎治療でユナシンを点滴投与されていましたが、現状では化膿性脊椎炎が主な治療対象になるので、整形外科専門医が常勤で居る施設への転院を勧めました。
後から考えると初診時に化膿性脊椎炎の存在を念頭におくべきだったかもしれません。しかし、素人目に見ても明らかな肺炎があったので、すっかり化膿性脊椎炎の可能性を失念しました。
結果オーライとは言え、今後は腰痛がある場合には、例え他の疾患で熱発や炎症所見亢進の原因が明らかに見えても、化膿性脊椎炎の可能性を念頭に置くべきだと思いました。
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化膿性脊椎炎
昨日は、鳥取大学医学部教授の永島英樹先生の講演を拝聴してきました。
講演内容は、脊椎感染症に関する最新の知見についてでした。
高齢者社会になって、易感染性を有する患者層が増加しています。これに伴い脊椎感染症の患者数も増加しており、整形外科医としても脊椎感染症の知識は必須です。
実は、私も80歳台後半の化膿性椎間板炎の患者さんを現在治療しており、その患者さんに対する治療の参考になることを習得するために講演に参加したのです。
永島先生は、脊椎感染症の治療を開始する前にはできるだけ経皮的ドレナージを行い、その際に培養で菌種の特定をすることが重要だと強調されていました。
感染症治療の世界ではデスカレーション(deescalation)と言って、第三世代セフェムや、カルバペネムなどの広域スペクトルの抗菌薬から狭域スペクトルの薬に変更する考え方もあります。
しかし、永島先生は敗血症をきたしている場合を除いて、あくまでも培養で菌種を特定して薬剤感受性を確認してから、感受性のある狭域スペクトルの薬を投与するそうです。
あと、九州大学の大賀正義先生の下記の論文をご紹介されていたことが印象的でした。この論文は世界的に有名らしいのですが、恥ずかしながら私は初めて拝見しました。
Evaluation of the risk of instrumentation as a foreign body in spinal tuberculosis. Clinical and biologic study. Oga M, Arizono T, Takasita M, Sugioka Y.: Spine. Oct 1;18(13):1890-4.1993
この論文の意義を要約すると、結核菌は金属表面においてbiofilmをほとんど形成しないので、結核感染症例でも内固定材料を利用できるというエポックメイキングな内容です。
永島先生は流れるように講演されており、一般人の私にも非常に分かりやすかったです。また機会があれば拝聴したいと思いました。
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昨日は出張先での外来でした。
相変わらず連休明けの火曜日は激混みしており、新患患者さんだけで40名近く診察しました。
さて、多忙な外来も終盤に近づいた頃、常勤の年配のドクターがひょっこりやって来ました。先週入院させた化膿性脊椎炎の患者さんの経過報告に来られたのです。
この患者さんは、7月から腰痛が出現した30歳台の健康な方です。腰痛が続くため他のドクターがMRIをオーダーされたのですが、技師さんが化膿性脊椎炎に気付いて私がキャッチされたのです。
血液生化学データではWBCは正常範囲内でCRP/ESRは軽度上昇していました。MRIではL1-3の椎体がFat Suppressionで高輝度になっていましたが、腸腰筋の腫大や輝度変化を認めませんでした。また、椎間板の輝度変化もさほどではありませんでした。
通常、化膿性椎間板炎から化膿性脊椎炎に至るのでなんとなく違和感を感じる画像所見でしたが、臨床的には化膿性脊椎炎で間違いなかったので常勤医に引き継ぎました。血液培養でグラム陽性菌が検出されたそうです。
去り際に、「そういえば7月の初診の段階で単純X線の正面像で腸腰筋陰影が腫大していたから、化膿性脊椎炎の自然治癒の過程だったのだろうな」とおっしゃられました。
「!」と思ってその方の画像を確認すると、確かに7月の初診の単純X線正面像で右側の腸腰筋陰影が腫大して腰椎横突起のラインを越えていました・・・。
最近はすぐにMRIを撮像できるという慢心があるので、昔のドクターのように腰椎の単純X線像を読み込むことが少なくなっているのかもしれません。初心に戻って、単純X線正面像の腸腰筋陰影にも注意が必要だなと思いました。
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初学者が整形外科の外来や救急業務を遂行するにあたり、最もお勧めの書籍です
整形外科研修ノート (研修ノートシリーズ)
化膿性脊椎炎+化膿性腸腰筋炎の方の治療を行っています。
糖尿病がベースのcompromised hostです。
発症当日から抗生剤治療を開始しています。
MRIの所見と併せて、腸腰筋膿瘍ではなく筋炎の状態であると考えています。
化膿性脊椎炎(椎間板炎)においては、同定される起因菌の半数以上が黄色ブドウ球菌です。
したがって、第一世代セフェムが第一選択の抗生剤となります。
今回の症例でも第一世代セフェムに感受性があるようで、劇的に炎症所見や症状が改善しつつあります。今後どのタイミングで抗生剤を終了するかが問題になります。
3-4週間は最低でも投与続けるべきとの文献が多いようです。今回のように初期の段階で炎症所見が劇的に低下しても、CRPが完全には正常範囲内にならないケースが多いです。
したがってCRPが正常範囲内になるまで投与すると、自然に3-4週は掛かるケースが多いように感じます。
いずれにせよ、血流が豊富な脊椎や筋肉に感染を併発するのは、尋常なことではありません。
私の場合、幸い年に1例程度しか経験しませんが、いつも治療するにあたっては緊張します。
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