先日、外来に4日前からの両膝関節部痛を主訴に60歳台の患者さんが初診されました。
身体所見は、体温37.7度で両膝関節に著明な水腫がありましたが、発赤は認めませんでした。
両膝とも関節穿刺で混濁した関節液を吸引しましたが、検鏡では結晶を認めませんでした。糖尿病等の易感染性も無いそうで、両側同時発症であることを考えると感染は否定的です。
印象としては、(やはり)結晶性関節炎もしくは何らかの膠原病なのですが、急性発症で熱発もあるため化膿性関節炎を除外することができません。
関節液の塗沫検査でも菌体は確認できませんでしたが、治療をどうするのか悩ましいところです。治療方針は、①化膿性関節炎 ②その他 で全く異なります。
①化膿性関節炎であるなら入院での抗生剤投与や関節洗浄を検討するべきですが、②その他であれば短期的には経過観察のみです。
しかし、①化膿性関節炎の可能性が低い場合でも、臨床医の心情としては「エクスキューズ」目的の抗生剤投与を実施する誘惑に駆られます。
確率的には化膿性関節炎である可能性が10%未満であっても、感染を完全否定できていない状況下では、早期に抗生剤を投与しなかった責任を問われる可能性があるからです。
外来で抗生剤の点滴を行ったり内服の抗生剤を処方しても、急性の化膿性関節炎に対しては無効です。むしろ耐性菌をつくってしまうので、中途半端な投与は患者さんのためになりません。
私は、外来での中途半端な抗生剤投与は「エクスキューズ」以外の何者でもないと思うので、化膿性関節炎では無い印象の場合には、勇気を持って(?)抗生剤を敢えて投与しません。
もちろん、抗生剤を投与しない判断をおこなった経緯は詳細にカルテに記載しますが、自分の保身目的の抗生剤投与は、患者さんのためにも極力避けたいと考えています。
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化膿性関節炎
私の受け持ち患者さんでASOによる足部壊疽の方がいました。
この方は数十年来のヘビースモーカー&糖尿病の放置例です。
まだ比較的若年者ですが、両足部の血行状態が不良で、知らない間に足背に潰瘍を併発してしまいました。足部は軟部組織い乏しいため、すぐ直下に伸筋腱があります。
この方も潰瘍底に伸筋腱が露出してしまいました。これだけならまだ良いのですが、感染を併発したため関節包が融解してしまい、MTP関節が剥き出しになりました。
こうなっては、切断も時間の問題です。しかし、まだ比較的若年者であることと蜂窩織炎が一旦は鎮静化したため、感染が再燃するまで経過観察することにしました。
これが一年前のことなのですが、ヘビースモーカーだったので食道癌を併発されて摂食障害が出現したため、やむを得ずPEGを造設することになりました。
私は、PEG造設に対して何も期待していませんでしたが、この日を境に足部潰瘍が劇的に改善してきたのです!あれよあれよと言う間にMTP関節がふさがり、急速に肉芽形成が進展しました。
PEG造設から2ヶ月ほどで、MTP関節が露出するほど広範囲に広がっていた足部潰瘍が完全に治癒してしまったのです。化膿性関節炎を併発していたはずなのに綺麗に上皮化しています。
これには心底驚きました。ASOに起因した重度足部潰瘍症例であっても、栄養状態が良くなれば治癒する可能性もゼロではないことを今回の経験で学ぶことができました。
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症状と患者背景にあわせた頻用薬の使い分け―経験とエビデンスに基づく適切な処方
姉妹本に『類似薬の使い分け』があります。こちらは全15章からなり、降圧剤、抗不整脈薬、狭心症治療薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬、消化性潰瘍治療薬、鎮咳薬、皮膚科疾患治療薬、抗菌薬などが1章ずつ割り当てられています。
類似薬の使い分け―症状に合った薬の選び方とその根拠がわかる
先日、化膿性関節炎の経口抗生剤の投与法についてブログに書込みましたが、
大学の感染制御部の医師にお伺いした抗生剤チョイスをご紹介したいと思います。
既述のように骨関節系感染症では、教科書的にはCRP、WBC、ESRが正常化するまで2週間程度は第一世代もしくは第二世代セフェムなどの抗生剤の経静脈投与行います。
その後の経口抗菌剤の投与期間に関しては諸説ありますが、第一世代セフェムもしくはペニシリンを感染鎮静化後も3ヵ月程度服用させるという報告が有力です。
第一世代セフェムの経口抗生剤を採用していない医療機関が多いことが問題なのですが、細菌の感受性でペニシリン系も有効なら、経口ペニシリン製剤の投与を検討するべきです。
そして、経口ペニシリン製剤の組み合わせとして、下記のようなパターンが推奨されるそうです。
アモキシシリンカプセル(250mg) 3C
オーグメンチン配合錠 (250RS) 3錠
分3後 × 3ヶ月
オーグメンチン配合錠とは、クラブラン酸カリウム 125mg と アモキシシリン水和物 250mg の配合錠です。つまり上記の飲み合わせは、アモキシシリンの倍量投与になります。
当初、ペニシリン製剤の倍量投与のために、この2剤を併用するものと思っていました。しかしお伺いすると、アモキシシリンとクラブラン酸カリウムの服用量のバランスが重要とのことでした。
つまり、アモキシシリンに少量のクラブラン酸カリウムをカクテルすることで、アモキシシリン単剤よりも更なる相乗効果が期待できるそうです。
そして、この量の経口ペニシリン製剤を、3ヶ月間服用し続けることがポイントだそうです。骨関節系感染症は治癒しにくいので、3ヶ月の長期投与もやむを得ずといったところでしょうか。
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症状と患者背景にあわせた頻用薬の使い分け―経験とエビデンスに基づく適切な処方
姉妹本に『類似薬の使い分け』があります。こちらは全15章からなり、降圧剤、抗不整脈薬、狭心症治療薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬、消化性潰瘍治療薬、鎮咳薬、皮膚科疾患治療薬、抗菌薬などが1章ずつ割り当てられています。
類似薬の使い分け―症状に合った薬の選び方とその根拠がわかる
先日、臨時手術を施行した化膿性膝関節炎の患者さんですが、術後1週間の時点でWBC/CRPとも完全に陰性化しました。非常に良好な経過だと思います。
結局、培養ではMSSAが検出されました。教科書的にはCRP、WBC、ESRが正常化するまで2週間程度は第一世代もしくは第二世代セフェムなどの抗生剤の経静脈投与行います。
その後の経口抗生剤の投与期間に関しては諸説ありますが、第一世代セフェムもしくはペニシリンを感染鎮静化後も3ヵ月程度服用させるという報告が有力だと思います。
ここで問題になるのが、第一世代セフェムの経口抗生剤を採用していない医療機関が多いことではないでしょうか。少なくとも私が勤務経験のある医療機関の多くは採用していませんでした。
フロモックスやメイアクトのような第三世代セフェム以降の経口抗生剤を3ヵ月もの長期に渡って投与することは耐性菌の問題から避けるべきだと思います。
しかし、セフェム系の経口抗生剤はフロモックスやメイアクトしか採用が無いので困ってしまいました。ペニシリン系はどうかと言うと、今回検出されたMSSAの薬剤感受性はPIPCでRでした。
仕方無いので耐性菌を惹起しにくいテトラサイクリン系抗生剤のミノマイシン投与にしました。ミノマイシンは関節リウマチでDMARDsとして使用しているので長期投与も違和感がありません。
このまま感染が再燃しないことを祈りたいと思います。
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先週のことですが、夜診をしていたところ
その日の午前から誘因なく膝関節部痛が出現したという高校生が初診しました。
膝を見ると、たしかに膝関節水腫を認めました。部活でスポーツをしているとのことだったので、オーバーユースかと思い関節穿刺したところ、白濁した関節液を30cc吸引してしまいました・・・。
???と思って問診を取り直すと、既往にアトピー性皮膚炎があります、更に体温を測ってみると38度台でした。血液生化学検査ではCRPは0.2だったものの、WBC 10500でした。
CRPはWBCと比べて遅行するので、その日の午前発症なら上がっていなくても不思議ではありません。関節液を培養に提出した上で、セフトリアキソン(ロセフィン) 2gを点滴投与しました。
次の日も外来で診察しましたが38度台の熱発が続き、40ccほどの混濁した血性関節液を吸引しました。臨床的には化膿性膝関節炎なのですが、昨日の関節液の塗抹検査は陰性でした。
発症3日目の午前の血液生化学検査がCRP/WBC 12/10500であり、3日連続で38度台の熱発が続いたので、塗抹検査は陰性だったものの鏡視下関節清掃術の施行を決断しました。
化膿性膝関節炎の場合、手術を行わないデメリットが大き過ぎるという判断です。また、アトピー性皮膚炎の中学生の化膿性外閉鎖筋炎の治療経験があったことも後押しをしてくれました。
ただ、最終的に ”もしこの子が自分の家族であればどうするか?” という観点で考えた結果、”自分の子供なら迷うことなく手術を選択するだろう” と思って決断しました。
週末でしたが、その日の午後に臨時手術を施行しました。術中所見は軽~中等度の滑膜の増生を認めました。量がさほどではなかったので、鏡視下にほぼ全ての滑膜を切除できました。
術後から36度台に解熱して、術後のCRP/WBCは劇的に低下しました。臨床的にはやはり化膿性膝関節炎だったようです。培養の結果はまだ出ていませんが、手術を敢行して良かったです。
今回のようなツボにはまったケースは、まさに医師の醍醐味だと思います。こういう経験をすると、せっかくアーリーリタイアの決意をしたのに早々に挫けてしまいそうです(笑)。
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