日本整形外科学会誌 90: 245-249 2016の教育研修講座の「感染人工膝関節への対応: 現状と未来」を拝読しました。


今回の教育研修講座は近畿大学の赤木將男主任教授の講演で、下記の2つの資料(PDFでダウンロード可能)をベースに感染人工膝関節への治療戦略を概説されています。




まず、感染が疑われれば直ちに下記のスクリーニングを行います。

1. 血液生化学検査: CRP, ESR, 血球算定, 白血球分画
2. 膝関節液を採取し、細胞数カウント・白血球分類・グラム染色・培養
  • 術後早期(6週間以内): 細胞数>27800/μL、好中球>89%
  • 慢性期 (6か月以降): 細胞数>  1100/μL、好中球>64%
3. 単純X線像 → 骨びらん、インプラントの弛み、クリアゾーンの出現



近畿大学では下記の感染TKAの分類を行い、治療方針を決定しているそうです。

Type 1: 再置換手術時の培養結果で細菌感染が明らかになったもの
Type 2: 術後1ヵ月以内に発生した早期術後感染
Type 3: 良好に経過していた症例に急性に生じる血行性感染
Type 4: 1年以上持続する慢性感染

( Segawa H et al. Infection after total knee arthroplasty. JBJS Am 1999; 81: 1434-45. )
 



感染の持続時間、すなわち感染急性期に診断・治療ができているか否かを重視しているため、インプラント温存が可能な条件は、Type 2, 3かつ発症から3週間以内の症例に限定されます。



インプラント温存の可否を決める感染持続時間のcut off値は不明であるが、1~4週間が限界であるとの報告が多いので、 発症から3週間以内に設定しているそうです。


治療はオープンデブリドマンで手技は下記のごとくです。尚、直視可能な膿や感染組織をあらかた除去した後に、関節鏡用シェーバーを用いると感染性滑膜や肉芽のみ切除できるそうです。

  1. ポリエチレンインサート抜去
  2. 関節内全周性デブリドマン 
  3. 十分量のイソジン添加生食で洗浄
  4. 新品のポリエチレンインサート挿入
  5. 閉鎖式吸引ドレーンを留置



術後の抗菌剤投与は静脈内投与2~6週+経口投与6週以上で、培養での起因菌同定および抗菌薬感受性が重要であることは論を待ちません。


普段、TKAをたくさん施行している施設でも感染TKAの治療を行う機会は少ないと思います。もし自分の患者さんが不幸にして感染すれば、迅速な対応を心掛けなければいけませんね。





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