先週の新聞で、日本老年医学会が高齢者に出やすい副作用を予防するために「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(指針)」を10年ぶりに見直すという記事がありました。


日本老年医学会のホームページで中止を考えるべき医薬品約50種類を挙げ、やむを得ず使う場合の方法も盛り込んだ「」高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」を提示しています。


現在はパブリックコメントを募集している段階ですが、おそらくこの内容がガイドラインとなって、国内の高齢者治療のスタンダードになることが予想されます。


中止勧告の薬剤は、75歳以上の方が1ヵ月以上使用することを想定して選ばれています。リストを見て驚いたのですが、ほとんどの種類の薬剤が網羅されていました・・・。


リストに載っていない薬剤を探し出す方が困難だと思います。一応、使用を強く勧める「スタート」という一覧表を新設していますが、「推奨薬剤無し」の疾患が多過ぎて全く話になりません。


これでは75歳以上の方の薬物治療は放棄しろ! と言っていることと同義だと思います。このままでは高齢者の治療が不可能になるので、パブリックコメントしておいた方が良いのでしょうか?


整形外科医に日常的に使用する薬剤で中止勧告されているのは下記のごとくです。高齢者に投与する薬剤のほぼ全てが網羅されていることが分かります。


抗精神病薬(全般): 認知症の高齢者
睡眠薬(セルシン・ホリゾン・ハルシオン・デパス等): 全ての高齢者
抗血小板薬(バイアスピリン、プレタール等): 複数の抗血小板薬の併用している高齢者
ループ利尿薬(ラシックス等): 全ての高齢者
α遮断薬(カルデナリン等): 全ての高齢者
インスリン: 糖尿病の高齢者
NSAIDs(全般): 全ての高齢者
漢方(甘草含有製剤): 腎機能の低下した高齢者、ループ利尿薬を服用中の高齢者




一方、推奨薬剤は下記のごとくです。「推奨薬剤無し」の疾患が多過ぎて、ほとんど疾患で薬物治療が不可能であることが分かります(笑)。


精神疾患(認知症を含む): 推奨薬剤無し
不眠症: 推奨薬剤無し
COPD: インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン
不整脈: 推奨薬剤無し
高血圧症: ACE阻害薬
腎不全(CKD): 推奨薬剤無し
便秘症: 推奨薬剤無し
糖尿病: 推奨薬剤無し
骨粗鬆症: 推奨薬剤無し
関節リウマチ: MTX




関節リウマチではMTXが「推奨薬剤」に挙げられていましたが、現実問題として80歳以上の方にMTXを投与することは相当勇気が要ります。私ならSASPで逃げたいところですが・・・。


今回の高齢者の安全な薬物療法ガイドラインは、「注意喚起のまとめ」としての意義は大いにあると思います。しかし、ガイドラインの問題点は裁判の際に、原告の有力な資料となることです。


臨床医の多くは、今回のガイドラインで挙げられている副作用発生の危険性のことを考慮しながら、慎重に高齢者の治療にあたっていると思います。


今回のガイドラインは、他科領域までも含めた「注意喚起のまとめ」としては素晴らしい内容ですが、注意喚起に偏り過ぎて裁判での判断材料となる可能性を軽んじていると思います。


ガイドラインに準拠していない治療で問題が発生した場合、相手に付入る隙を与えてしまいます。その意味で「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」には大きな問題があると考えるのです。



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