Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
高齢の肺炎患者への「とりあえず禁食」から一歩前進のエビデンス です。




高齢の肺炎患者に対してはしばしば禁食下での抗菌薬治療が行われる。熊本県玉名地域保健医療センターの前田圭介氏らは,この「とりあえず禁食」に対する医療現場での疑問を解消しようと研究を開始した。


誤嚥性肺炎患者へのルーチンな禁食が場合によっては予後悪化につながること,そして早期に経口摂取を開始することが同患者の予後改善に関連するとの2件の報告を米国・欧州の専門誌に発表した。


研究のきっかけは,職場の看護師や言語聴覚士からの「食べると元気になる」「食べていない人はどんどん摂食嚥下機能が落ちる」という声だったと話す前田氏。


解析対象は2011~14年,同施設に入院した65歳以上の誤嚥性肺炎の連続症例331例(男性165例,女性166例,平均年齢85.7±7.7歳)。高度の嚥下障害や入院直前の嘔吐,3L/分以上の酸素療法を受けている患者は経口摂取が難しいとの理由で除外された。


禁食群では早期経口摂取群に比べ,入院日から1週間の栄養摂取の有意な悪化(P<0.005),治療期間の延長〔禁食群 vs. 早期経口摂取群の治療日数中央値(50% treatment length),13日(95%CI 12.04~13.96日)vs. 8日(同7.69~8.31日),P<0.001〕の他,治療期間中の嚥下機能の有意な悪化(P<0.001)が見られた。


もう1つの論文は,同じく2011~14年に肺炎で入院した65歳以上の連続症例370例を対象とした別の単施設における研究(J Am Geriatr Soc 2015; 63: 2183-2185)。入院から2日以内の経口摂取開始(早期経口摂取),身体機能(寝たきり状態の有無)と退院時の予後の関連を評価した。  


早期経口摂取群(201例)はそうでない群(3日以上の絶食管理,169例)に比べ,退院時の経口摂取率が有意に高く,入院期間が有意に短縮。寝たきりの有無による予後への関連と同様に,患者への影響が大きいことが示唆された(図1)。






「高齢の肺炎患者に禁食がルーチンに行われている背景には,肺炎患者に経口摂取させてよいのかというエビデンスも不足している。そのため,さらなる誤嚥で窒息することのリスクに目が行くのだと思う」と分析する。


とは言え,今回の前田氏らの発表で「では,もともと経口摂取していて高度の呼吸不全や嘔吐などの阻害因子がなければ,経口摂取を早期開始すればよい」というわけでもないようだ。 同氏らの研究では,肺炎疑い例への嚥下機能評価で誤嚥や嚥下障害例を検出し,早期の経口摂取が可能と判定された患者には専門のチームによる口腔ケアや姿勢調節,体操,顔面筋のマッサージや発語訓練など多面的な介入が行われている。


「状態が悪く,食物を大量に誤嚥することがあれば,窒息や呼吸不全につながるリスクもある」と同氏。リスク管理を行いながら,禁食を離脱するには「食支援をする意欲,知識,技術を持つスタッフによる治療環境が必要」と強調する。


同氏らの職場では食支援に関する研修を反復して実施し,支援の質のコントロールを行ったり,専従の摂食嚥下チームが病棟スタッフと協力し,患者の経口摂取のためのリスク管理を行ったりしている。 「医療従事者の努力次第で,患者の予後に寄与できる食支援には大きな魅力があり,手を抜いてはいけない領域と考えている」と同氏。

                               




整形外科医も高齢の入院患者さんを多数抱えているため、入院中に肺炎を併発した患者さんを治療する機会が多いです。その際に、私もほぼ全例絶飲食としています・・・


しかし、絶飲食は患者さんの摂食能力を有意に低下させてしまします。確かに絶飲食にすると誤嚥の心配はないですが、体力がどんどん低下していくことが手に取るように分かります。


絶飲食・点滴・身体拘束を併用することも多く、患者さんのADL低下を犠牲にして肺炎治療しかみていない自分が嫌になることが多々あります。


しかし実臨床の現場では、早期の経口摂食再開が適切な患者さんと、そうではない患者さんの見極めは容易ではないです。 この見極めのためには、多職種のカンファレンスが重要です。


全ての病院で正確に嚥下機能を評価できる理想的なチーム医療体制が組めるかというと、コストやマンパワーの問題で難しいと言わざるを得ないのが現実ではないでしょうか。


このため、まずは絶飲食して状態を安定させた後に、できるだけ早期に嚥下機能評価を行い、誤嚥の可能性が低ければ食事を再開するという対応が現実的で妥当なのかなと思います。


いずれにせよ、誤嚥性肺炎との思い込みから食事を遠ざけるのではなく、患者さんが
誤嚥性肺炎なのか感染性肺炎なのかの判断をきちんと行うことが重要だと思いました。



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