私が日常診療で苦手意識がある脱臼は、肩関節脱臼と顎関節脱臼です。
もちろん、顎関節脱臼は耳鼻科や口腔外科領域の外傷です。
しかし、”関節の脱臼”ということで整形外科医なら簡単に整復できるだろうと期待されます。
顎関節の解剖はよく分からないので、いつもひやひやしながら整復しています。


肩関節は、若年者、高齢者および脳梗塞後の脱臼ともそれぞれ問題点があって徒手整復に苦手意識があります。まず若年者は、筋肉が発達していることが多く、無麻酔では整復できないことが多いです。特にラグビー選手の整復は難渋することが多かったです。


昔は、ヒポクラテス法・コッヘル法などをやっていましたが、無麻酔では成功率が低かったです。
現在では下記のアルゴリズムです。


①まず、患肢に 3-5kgのリストバンドを装着して、Stimson法を30分間行います。
②整復不可なら静脈麻酔をかけてもらい、ヒポクラテス法もしくは90-90度法で整復します。麻酔下ではあっけなく整復可能です。


次に高齢者や脳梗塞後の脱臼ですが、骨の脆弱性があるため骨折を併発することがあります。
実際、私が5年目の時に無麻酔で整復を試み、上腕骨3 part骨折を併発した苦い経験があります。したがって、骨脆弱性のある場合も、上記①②の方法で対応しています。


結論的としてStimson法で整復不能の場合には、無理をせずに静脈麻酔をかけてもらって愛護的に整復することが望ましいのではないかと考えます。肩関節脱臼ごときで静脈麻酔なんて!という意見もあるかと思いますが、100例中1例でも骨折を併発すると後が大変です。何事も安全第一ではないでしょうか。