先日、関節リウマチで生物学的製剤を投与中の患者さんが肺炎を併発しました。易感染性の基礎疾患をもっている患者さんなので、肺炎の再燃を繰り返しています。
前回は入院する必要があるほどの肺炎だったので、生物学的製剤を一旦中止しました。中止期間は約2ヵ月なのですが、この間に関節リウマチの症状が再燃してしまいました。
2ヵ月なので当たり前と言えば当たり前なのですが、肺炎がなかなか軽快しないため、ずるずると生物学的製剤投与再開を引き延ばしていたのです。
こちらでもご紹介したように、肺炎を併発した関節リウマチ患者さんの治療には細心の注意が必要です。基本的には、免疫調整薬はセーフですが、免疫抑制薬はアウトです。
MTXをはじめとする免疫抑制薬は、1度でも重症肺炎を併発した患者さんには使いづらいです。このため、臨床所見をニラミながら生物学的製剤再開の時期を図ります。
肌感覚で言うと、重症肺炎等の併発リスクは、MTXなどの免疫抑制薬よりも生物学的製剤の方が低い印象です。
このため、かなりドキドキしながらではありますが、肺炎後の患者さんにはMTX投与は控えつつも、生物学的製剤を再開して関節リウマチのコントロールを行っています。
肺炎
高齢者の大腿骨近位部骨折の治療で悩まされる機会は多いです。骨折そのものというよりも、肺炎等の骨折に併発している疾患が問題となります。
私が先輩医師から教わった理論(?)は、高齢者に肺炎併発 → しんどくてふらついて転倒 → 大腿骨近位部骨折 というパターンです。
このパターンを踏襲している症例では肺炎を発症しているので、手術を施行することが難しくなります。
こうなってくると麻酔科医師との協議になるのですが、誰かがリスクを取る必要があります。手術を敢行するなら主治医と麻酔科医師、待機するなら主治医のリスクとなります。
そして肺炎といっても軽度から重度までさまざまです。重度の肺炎ではさすがに手術を施行しようとは思いません。しかし、軽度の肺炎ではどうでしょう?
私は、手術可能か否かの判断材料のひとつとして、患者さんが「しっかり話をすることができるのか否か」を重要視しています。
重度の肺炎患者さんでは会話をすることもできない一方で、軽度の肺炎では呼吸苦も無いため大きな声でしっかり会話できるからです。
先日も肺炎を併発している超高齢者の大腿骨転子部骨折患者さんの手術可否について悩みました。この方は大きな声でしっかり話すので、思い切って手術を敢行しました。
麻酔科医師には迷惑な話だと思いますが、患者さんのことを最優先で考えるとそのような結論になりました。この判断法の勝率は高く、まだ重篤な状態になった患者さんは居ません。
もちろん、個人レベルのエビデンスの無い経験則であり、今後地雷を踏む可能性もあります。しかし医師である以上、ある程度のリスクを引き受けて治療を行うべきだと思います。
先日、アルバイト先で呼吸不全・熱発・腰痛で内科入院しようとしていた70歳台の易感染性(糖尿病の既往)の患者さんを診察しました。このアルバイト先には整形外科の常勤医師が居ません。
内科医師が診察したところ胸部XpとCTで肺炎を認めたので、この患者さんは救急室で病棟に上がるためにストレッチャー上で待機している状況でした。
「腰痛もあるようだから整形外科でも診察頼みます」と言われたので、腰椎・胸腰椎の単純X線像を撮影しました。圧迫骨折も無かったので、特に問題は無さそうな旨を主治医に伝えました。
それから2週間後に、まだ腰痛が続くとのことで整形外科に病棟から診察依頼がありました。圧迫骨折の可能性を念頭に再度単純X線像を施行したところ、目が点になりました。
たった2週間でL1/2の椎間板腔が狭小化しているではないですか!急いで腰椎CTを施行しましたが、L1-2高位の大腰筋に腫脹は認めません。
しかし、矢状断では明らかにL1/2の終板が破壊されています。血液生化学所見でも肺炎が軽快しているにも関わらずCRP/WBC/ESRが正常化していません。
幸い、肺炎治療でユナシンを点滴投与されていましたが、現状では化膿性脊椎炎が主な治療対象になるので、整形外科専門医が常勤で居る施設への転院を勧めました。
後から考えると初診時に化膿性脊椎炎の存在を念頭におくべきだったかもしれません。しかし、素人目に見ても明らかな肺炎があったので、すっかり化膿性脊椎炎の可能性を失念しました。
結果オーライとは言え、今後は腰痛がある場合には、例え他の疾患で熱発や炎症所見亢進の原因が明らかに見えても、化膿性脊椎炎の可能性を念頭に置くべきだと思いました。
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先日、転倒してから腰が痛くて立てなくなったという患者さんが救急搬送されました。「腰が痛い」というので整形外科の私が救急を受けたのですが、搬入時の酸素飽和度が80%台でした。
問診を取ると、数日前からかなり呼吸が苦しかったようです。取りあえず胸部・腰椎・胸腰椎・骨盤Xpを施行すると、右肺野が真白でした。明らかに肺炎を併発しています。
L1圧迫骨折もありましたが、重症度から考えて内科入院となりました。今回のように肺炎を発症してしんどいために転倒して骨折するケースは非常に多いと思います。
私の勤務している施設では入院を必要とする骨折の半分近くに肺炎が先行している印象を受けます。「女性を見たら妊娠を疑え!」と同様に、「高齢者の骨折を見たら肺炎を疑え!」ですね。
この考え方をしていると、大腿骨近位部骨折「術後」に肺炎を併発した!などのトラブルを回避できる確率が上がります。「術後」ではなく「術前」から肺炎を併発しているケースが多いのです。
単純X線像で肺野に浸潤影が無いことや熱発していないことでは、肺炎を除外することはできません。高齢者の肺炎ではあまり熱発しないこともあるからです。
長年整形外科医をやっていると、さまざまな危機回避能力を身に着けます。今回の「高齢者の骨折を見たら肺炎を疑え!」も、私がいつも注意していることです。
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今日は正月明けの月曜日だったので大変でした。休み中に大腿骨頚部骨折の患者さんが2名入院していたのですが、両者とも38度台の熱発をしています。
血液生化学検査を施行したところ、両者ともWBC/CRP上昇していました。 これはあまり良くない検査結果だなぁと思い、胸部CTを施行したら肺炎を併発していました。
両者とも入院時から熱発していたので、、「大腿骨頚部骨折→肺炎」ではなく、「肺炎 → 大腿骨頚部骨折」というストーリーであった可能性が濃厚です。
つまり、肺炎を発症してしんどくなったために転倒して大腿骨頚部骨折を併発したということです。大腿骨近位部骨折では、このパターンが非常に多いため注意を要すると思います。
それにしても、やはり高齢者の熱発は要注意だと思いました。私は入院中の高齢者(>80歳)が37度台後半以上の熱発したら、すぐに血液生化学・尿検査と胸部単純X線像を施行します。
過剰医療の謗りを受けるかもしれませんが、私の経験上は80%以上の確率で治療を要する肺炎・尿路感染症・胆管系疾患等を併発していると感じています。高齢者の熱発は要注意ですね。
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