先日20歳台前半の女性が腰痛を主訴に受診しました。
2日前から右側の腰痛が出現したとのことで歩行も少しヨタヨタしています。
「急性腰痛症でしょ」となるところですが、問診をとると安静時にも腰痛があるそうです。曰く、寝ていても座っていても痛いとのこと...。
このような安静時痛は少し嫌なパターンです。私の中では、安静時の腰痛=レッドフラッグと認識しています。過去には若年女性の腰痛で卵巣軸捻転の経験があります。
下腹部は痛くないですか?と訊くと、腰からお腹に回ってくるような痛みがあるとのことでした。腹部の McBurneyにも圧痛がありそうです。もしかして、虫垂炎???
外科に紹介すると、WBC/CRP 11000/2.5で、腹部CTでは虫垂周囲の脂肪織の輝度が上昇してるので軽度の虫垂炎だろうとの診断でした。
う~ん、やはり腰部の「安静時痛」はクセ者だと再認識しました。安静時といっても、寝返りしたときに痛いのも安静時痛と言う患者さんもいるので要確認ではありますが...。
腰痛
腰痛の8割は原因が分かる! のつづきです。山口大学整形外科の鈴木先生の報告から、非特異的腰痛は2割程度しかないことがわかりました。
では、腰痛の原因の内訳はどのようになっているのでしょうか? 論文によると、腰痛の原因は下記の表のごとくです。
上から4つ目のSacroiliac joint syndromeまでは良性疾患で、外来で経過観察可能です。ここまでで全体の56.9%のようです。
一方、上から5つ目のLumber compression fracture から Lumber spinal stenosisまでの20.9%は病的な腰痛で、場合によっては手術も必要です。
以上は、保存治療が可能か、手術治療も検討するべきかの視点での分類です。そして、腰痛の原因の頻度順にまとめると、下記の4つで全体の6割を占めるようです。
- 椎間関節性腰痛 20%
- 筋膜性腰痛 20%
- 椎間板性腰痛 10%
- 腰部脊柱管狭窄症 10%
上記の数字を頭の片隅に置きながら、明日からの日常診療に臨もうと思います。
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。
先日、日経メディカルを読んでいると、札幌医科大学整形外科の山下教授の「危険な腰痛を見極めろ」というレポートが目に留まりました。
2001年に海外で原因が明らかではない非特異的腰痛が腰痛全体の80%を占めるという論文が発表されて以来、腰痛は原因の特定が難しいというイメージが一人歩きしました。
しかし、山下教授は「きちんと身体診察していないからではないのか?」と懐疑的な見方をしていましたが、論拠となるデータが無いために反論が難しかったとのことです。
ところが、2016年に山口大学の鈴木秀典先生が、腰痛患者320人を対象に腰痛の原因を精査した結果、約8割は原因が判明して、非特異的腰痛は2割に過ぎなかったと報告しました。
Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study.Suzuki H, Kanchiku T, Imajo Y, Yoshida Y, Nishida N, Taguchi T.PLoS One. 2016.
nが少ないものの、きっちりした報告だと感じました。診断的神経ブロックなどを日常外来で頻回に行うことはなかなか難しいですが、手間さえかければ診断はつくようです。
腰痛の原因は診断がつかないのではなく、手間さえかければ8割は診断がつくという報告は、海外論文に洗脳されていた私には新鮮な驚きでした。
追記
とぜん先生に教えてあげようと思ったら、2年前(!)にこちらで記事になっていました。さすがです。。。 脊脊ジャーナルですでに採り上げられていたんですね。
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。
先日、アルバイト先で呼吸不全・熱発・腰痛で内科入院しようとしていた70歳台の易感染性(糖尿病の既往)の患者さんを診察しました。このアルバイト先には整形外科の常勤医師が居ません。
内科医師が診察したところ胸部XpとCTで肺炎を認めたので、この患者さんは救急室で病棟に上がるためにストレッチャー上で待機している状況でした。
「腰痛もあるようだから整形外科でも診察頼みます」と言われたので、腰椎・胸腰椎の単純X線像を撮影しました。圧迫骨折も無かったので、特に問題は無さそうな旨を主治医に伝えました。
それから2週間後に、まだ腰痛が続くとのことで整形外科に病棟から診察依頼がありました。圧迫骨折の可能性を念頭に再度単純X線像を施行したところ、目が点になりました。
たった2週間でL1/2の椎間板腔が狭小化しているではないですか!急いで腰椎CTを施行しましたが、L1-2高位の大腰筋に腫脹は認めません。
しかし、矢状断では明らかにL1/2の終板が破壊されています。血液生化学所見でも肺炎が軽快しているにも関わらずCRP/WBC/ESRが正常化していません。
幸い、肺炎治療でユナシンを点滴投与されていましたが、現状では化膿性脊椎炎が主な治療対象になるので、整形外科専門医が常勤で居る施設への転院を勧めました。
後から考えると初診時に化膿性脊椎炎の存在を念頭におくべきだったかもしれません。しかし、素人目に見ても明らかな肺炎があったので、すっかり化膿性脊椎炎の可能性を失念しました。
結果オーライとは言え、今後は腰痛がある場合には、例え他の疾患で熱発や炎症所見亢進の原因が明らかに見えても、化膿性脊椎炎の可能性を念頭に置くべきだと思いました。
★★★ 管理人 お勧めの医学書 ★★★
腰椎の手術―ベーシックからアドバンストまで必須テクニック (OS NOW Instruction)
今日の午前中はアルバイト先での外来でした。少し前に60歳台の男性の方が2ヶ月続く腰痛を主訴に初診されたのですが、単純X線像でL2椎体の硬化像を認めました。
L4~5にも硬化像がありましたが椎間関節を中心とした硬化像であり、L2のように椎体全体の硬化像ではありません。嫌な感じがしたので、念のためMRIを施行しました。
MRIではL2椎弓根から椎体までT1WI、T2WIとも低輝度だったので、転移性骨腫瘍と診断しました。単純X線像の所見と性別・年齢から前立腺癌を疑い、泌尿器科と内科に診察依頼しました。
そして、本日再診していただきPSAの値を確認すると異状高値だったので、泌尿器科が主体になって前立腺癌の治療を開始する運びとなりました。
今回は、排尿障害等はなく腰痛で前立腺癌が見つかったのですが、整形外科の外来をしているとときどきこのようなことに遭遇します。
やはり、頑固な腰痛患者さんの場合には、転移性脊椎腫瘍の可能性があることを念頭において、細心の注意を払って診察する必要があることを改めて認識しました。
★★ 管理人お勧めの医学書 ★★
ガイドラインに準拠してわかりやすくコンパクトにまとまった良書です。概論が最初の30ページ程度なので、これはあらかじめ通読するとよいでしょう。各論は原発性骨腫瘍、腫瘍類似疾患、転移性骨腫瘍、軟部腫瘍、骨系統疾患、代謝性骨疾患の6章に分かれています。各章とも疾患ごとに、豊富な写真でわかりやすく解説されています。
骨・軟部腫瘍および骨系統・代謝性疾患 (整形外科専門医になるための診療スタンダード 4)
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