昨日の午前は人工膝関節全置換術(TKA)でした。
血液透析中の方で、脛骨内顆に巨大な骨欠損のある難症例でした。
この脛骨内顆の骨欠損のためFTAが195度もあり、屈曲拘縮も併発していました。このような方には大きな皮膚切開で進入してmedial parapatellar approachでしっかり術野を確保しています。
まず屈曲拘縮に関しては最初から大腿骨を通常より2mm切り上げました。脛骨側も内顆骨欠損の兼ね合いで1mm切り下げています。これだけ骨切しても伸展ギャップは非常にタイトでした。
内外側の靭帯バランスに関しては地道に内側のリリースで対応するしかありません。脛骨骨切面から脛骨結節上縁に停止するG, STのレベルまで一気にリリースしました。
屈曲拘縮への対応も兼ねて、このレベルの剥離を脛骨背側の中央部まで施行しています。更に脛骨インプラントを許容できる最小サイズを選択して脛骨内側の余分な骨棘を切除しました。
これだけリリースを行いましたが、内外側の靭帯バランスは内側の緊張が残りました。術中の伸展制限は約10度なので、あとはリハビリテーションをがんばってもらい対応する予定です。
ちなみに血液透析の方だったので感染対策に抗生剤にセメント40gに対して抗生剤(CEZ)を0.5g混ぜています。欧米のように日本でも抗生剤含有骨セメントが販売されたらいいですね。
血液透析
以前、血液透析施行例での関節リウマチ治療という記事を書きました。この中で、血液透析施行例でも使用可能な薬剤について検討しました。当時の私は血液透析と血漿交換を混同していたのですが、その後コメントで生物学的製剤の透析性について指摘を受けました。
そこで、文献を渉猟した結果、血液透析中であっても生物学的製剤はほぼ通常通りの使用方法で問題無いことが判明しました。もちろん、血液透析症例ではMTXが禁忌のため、使用できる生物学的製剤は制限されます。
具体的には埼玉医科大学リウマチ膠原病内科の秋山雄次先生の論文に詳述されています。
維持透析中の関節リウマチ患者における抗リウマチ薬の使用法
485-492, 日本臨床免疫学会会誌 Vol.34 No. 6, 2011
要約すると、下記の如くとなります。
・ DMARDsではSASP、TACを中心に治療を進める
・ 生物学的製剤では①TCZ ②ETN、ADA、ABA の順番で推奨される
・ 生物学的製剤の導入に際しては、通常例以上に感染のスクリーニングおよびモニタリングを徹底する
・ AAアミロイドーシス合併RAは予後が悪いので、積極的に生物学的製剤導入を検討する
関節リウマチで血液透析施行例の方は、AAアミロイドーシスのために腎不全に移行した症例も多いようです。したがって感染のスクリーニングおよびモニタリングを徹底しながら、生物学的製剤の導入を推奨されています。
血液透析施行例での関節リウマチ治療を行う際には、秋山先生の論文を一読することをお勧めします。
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初学者が関節リウマチの治療体系を俯瞰するにあたり、最もお勧めの書籍です
関節リウマチ治療実践バイブル
血液透析施行例での関節リウマチ治療 その2 のつづきです。
経験上、大関節を人工関節に置換することは、ADLの改善だけではなく関節リウマチの疾患活動性を抑制する効果も期待できるように思います。このあたりは、整形外科系リウマチ医の感覚ですね。
しかし、透析+関節リウマチ+生物学的製剤投与という3重苦なので、術後感染が非常に怖いです。少しでも感染リスクを避けるために、生物学的製剤のスイッチングはTKAの術後にトライすることがベターであると判断しました。それまではバイオフリーで経過観察でしょうか。
とても気が重くて逃げ出したくなる症例ですが、誰かがリスクを引き受けなければなりません・・・。次の外来で、この方およびご家族と治療方針について話し合おうと思います。
もし、似たような症例を経験された方や、もっといい方法があると思われた方がいらっしゃるようなら、治療方針につき是非ご意見をお伺いしたいと存じます。何卒宜しくお願い申し上げます。
血液透析施行例での関節リウマチ治療 その1 のつづきです。
まず、MTX投与不可なので代わりとなるDMARDsを検討しました。透析例でも使用可能なDMARDsとしては、アザルフィジン(SASP)やアラバ(LEF)があります。LEFは間質性肺炎が怖いので、まずはSASPを投与開始してみました。DIを参照したところ、透析例でも減量の必要性は無いとのことです。
次に生物学的製剤のスイッチングについて検討しました。レミケード(INF)、アクテムラ(TCZ)、オレンシア(ABA)、シンポニー(GLM)などの投与間隔の長い製剤は、週3日の透析毎に除去されてしまうため効果の持続を期待できません。投与間隔が最も短い製剤はETN 25mgです。
この方にはETNが一次無効であったので再開するのもどうかと思いましたが、ETNは中和抗体が無いので試してみる価値はあるかなと思いました。
そして現在、この方が最も困っているのは、左膝関節と両肘関節痛です。単純X線像ではそれぞれ高度の関節破壊を認めます。立位もままならない状態なのでADLの改善には人工膝関節全置換術(TKA)が望ましいと考えました。
血液透析施行例での関節リウマチ治療 その3 につづく
※ 2013.4.25追記
生物学的製剤に透析性はありません。したがって、通常通りの使用方法が可能です(MTXが使用できないため、選択できる薬剤が限られます)。尚、感染のスクリーニングおよびモニタリングには十分に留意するべきです。詳しくはこちらをご覧ください
最近、外来で悩ましい関節リウマチの患者さんを散見します。
その中のお1人で、慢性腎不全を併発しているコントロール不良の患者さんがおられます。
この方は発症してから30年以上たっており、当初はシオゾールを投与されていました。MTXが解禁になってからはリウマトレックスで治療を受けていましたが、コントロール不良のため5年前からエンブレル(ETN)も導入されました。
3年前に血液透析導入となったため、MTXは中止されています。ETNが一次無効であったため、2年前にヒュミラ(ADA)にスイッチされたようです。しかし、当院紹介時の疾患活動性がSDAI 21.4 / DAS28-ESR 9.7 と目を背けたくなるような状態でした。
一般的に考えて血液透析を導入した関節リウマチの患者さんは、疾患活動性が低下することが多いと思います。考えてみれば血液透析を施行するということは、週3日も血漿交換しているようなものですから。
しかし、この方はなかなか関節リウマチのコントロールをつけることができません。前医の苦しみが手に取るように分かります。慢性腎不全なのでアンカードラックであるMTXを使用できないのが辛いところですが、治療方針について考えてみました。
血液透析施行例での関節リウマチ治療 その2 につづく
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