脳脊髄液減少症という名前をときどき聞くことがあると思います。なんとなく胡散臭い響きのある病名ですが、本当にそのような疾患は存在するのでしょうか?
胡散臭さの原因は、交通事故の「むち打ち症」の多くは脳脊髄液減少症が原因である、という週刊誌などのトンデモ記事のためです。
このようなエキセントリックな記事が出ると胡散臭さが激増するので、本当にその疾患の症状で苦しんでいる人が居るとすれば非常に迷惑な話です。
知人から脳脊髄液減少症について相談されたので、少し調べてみました。厚労省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準が最も信頼性の高い資料となります。
厚労省研究班の診断基準ですが、冒頭から下記のような但し書きが謳われています。う~ん、研究班の苦悩ぶりが垣間見れます(苦笑)。
研究班では、以下の基準を作成するにあたり、疾患概念についての検討を行った。「脳脊髄液減少症」という病名が普及しつつあるが、現実に脳脊髄液の量を臨床的に計測できる方法はない。脳脊髄液が減少するという病態が存在することは是認できるとしても、現時点ではあくまでも推論である。画像診断で は、「低髄液圧」、「脳脊髄液漏出」、「RI 循環不全」を診断できるにすぎない。以上のような理由で、今回は「脳脊髄液減少症」ではなく「脳脊髄液漏出症」 の画像判定基準・画像診断基準とした。
脳脊髄液減少症は、その疾患名になっている「脳脊髄液の量」を直接計測できないことに問題があります。このため、随伴する症状や疾患からその存在を類推するしかありません。
髄液漏出症
- 脳槽シンチ
- MRミエロ
- CTミエロ
低髄液圧症
- 頭部MRI(硬膜肥厚)
- 髄液圧測定
脳脊髄液減少症に付随する可能性がある「髄液漏出症」「低髄液圧症」の診断は、それぞれ上記のような検査で捉えることが可能です。しかし、陽性率は概して低いです。
ときどき硬膜外ブラッドパッチが著効したから、脳脊髄液減少症であると主張する方が居ますが、これは原因と結果が完全に逆転してしまっています。
厳密に言うと、ほとんどの症例で脳脊髄液減少症が存在する証拠を捕まえることはできません。調べれば調べるほど、やっかいな疾患(?)であると思いました。
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。