Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
外科系診療報酬にも"費用効果"導入 です。




 外科系学会社会保険委員会連合(外保連)は、1年3カ月後に控えた次回(2018年度)の診療報酬改定に向けて、準備を進めている。東京都で開かれた外保連の記者懇談会において、高額医療材料・医療機器については、費用効果を新たな評価軸として考えていく方針が明らかにされた。


人件費、材料費以外の部分を費用効果で評価  

 外保連会長で埼玉県立小児医療センター病院長の岩中督氏は「近年、高額な薬剤について医療費抑制の面から議論されるようになったが、外科技術の中にもさまざまな高額医療材料・医療機器を使うものがある。外保連では、医療費抑制はもちろん、費用効果の面からも外科技術の見直しを進めている」と述べた。

 外保連手術委員会委員長で聖マリアンナ医科大学小児外科病院教授の川瀬弘一氏は、2013年以降の外保連における費用効果に関する動向を説明。従来は人件費と医療材料費を評価軸としてきたが、これだけでは評価が十分ではないため「手術の新しい評価軸」を作成し、「外保連試案2016:外保連手術試案第8.3版」では5つの評価軸を設けた(関連記事)。

 5つの評価軸のうち"費用効果"について、同試案ではエビデンスがあるものを「該当する手術」とした。具体的には斜視手術(前転法、後転法など6種)、眼筋移動術、水晶体再建術(眼内レンズ挿入)、光線力学腫瘍破壊術、スリーブ状胃切除術(腹腔鏡下)、重症肥満に対する胃バイパス術(腹腔鏡下)などで、人件費、材料費以外にも費用がかかる術式としての評価を求め、前回の改定の際にはそのうち30%ほどが若干増点になったという。


"手術短縮=安くなる"ではない

 外保連手術委員会では「外保連試案2018:外保連手術試案第9.1版」を見据え、技術評価の適正化のため手術に関する実態調査を4年ぶりに行った。昨年(2016年)10月の1カ月間に日本外科学会の指定・関連施設、加盟学会の専門施設を対象に3,000以上の術式について手術時間のデータを収集し、手術時間を修正した。

 その結果、手術時間が短くなる術式は167術式(うち手術時間が半分以下に短縮される術式は13術式)、長くなる術式は271術式であった。川瀬氏は「前回(2016年度)の診療報酬改定の際には、手術時間が半分以下に短縮された術式が減点されたため、13術式については様子を見ている。これらのデータは、手術試案第9.1版に反映させるつもりだ」と述べた。

 現在では、高額な医療機器や多額の設備投資を要する手術もあるが、同氏は「手術試案では、原則的に人件費と医療材料を評価軸とすることに変わりはないが、高額なものについては、新しい評価軸である"費用効果"で対応していくことになると考えている」と述べた。実態調査の結果、手術時間が短縮となった手術について、同氏は「"短縮=安くなる"ではないことを外保連手術委員会として発信していきたい」と強調した。


ロボット支援手術:現状では"赤字覚悟"での施行

 日本泌尿器科学会からは、日本医科大学大学院泌尿器科学教授の近藤幸尋氏がロボット支援腎部分切除術について報告した。小径腎がん治療では腎部分切除が推奨されており、以前は開腹手術が一般的だった腎部分切除は、現在は腹腔鏡下ロボット支援手術が一般的である。昨年、ロボット支援手術(da Vinciサージカルシステム)も保険収載された。

 ロボット手術と腹腔鏡手術の比較では、手術時間、出血量、入院期間、合併症などは同等だが、温阻血時間はロボット手術で短い。腎機能温存、がんの根治性、合併症の軽減もロボット手術の方が圧倒的に優位である。

 わが国におけるロボット腎部分切除術は、保険収載を機に昨年は年間1,670件に増加。今後、ロボット腎部分切除術の件数はさらに増加すると推定されている。しかし、ロボット支援腎部分切除術の実診療経費(外保連試案の実態調査)と診療報酬請求額の比較では、外保連試案の約124万円に対して診療報酬額は約70万円と50万円ほどの赤字になる結果であった。

 なぜ、50万円もの赤字になるのかについて、年間施術件数を130例として考えてみる。da Vinciの場合、最も大きい経費が約3億円の本体価格と保守料(年間約1,400万円)である。さらに消耗品も高額で、1例当たり22万円ほどかかる。導入後の5年間で、本体と消耗品のみ(人件費などの加算なし)で約5億4,000万円かかるが、130例/年の診療報酬額は5年間で5億7,000万円となり、ほぼ同額である。

 今後、有用な術式として普及すると考えられるロボット支援腎部分切除術だが、現在は赤字覚悟で施行しなければならない。同氏は「さらなる普及に当たって、泌尿器科としては保険診療点数の改定を強く望む」と述べた。

 外保連では医療機器本体の価格を取り込んで試案点数を作成しているわけではないため、高額医療機器や高額医療設備を使用する医療技術に対して、今後どのように厚生労働省と意見交換を行っていくかについては、次回の診療報酬改定の際に大きな話題になると思われる。


ステントグラフト:費用効果は十分

 日本血管外科学会からは、川崎医科大学心臓血管外科学教授の種本和雄氏が弓部大動脈瘤治療に対するカワスミNajuta胸部ステントグラフトシステムの費用効果について報告した。同システムは他のシステムに比べて高額であることから、厚労省において検討中で、外保連でも検討することになった。

 弓部大動脈は、頭部や上肢に通じる3本の血管(弓部分枝)が分枝しており、特に頸動脈は3分以上血流が止まると患者の予後およびQOLに関連する重大な問題が生じるため、頭部に通じる血流を止めることができないというのが、弓部大動脈瘤治療の特殊な部分である。

 主な弓部大動脈瘤治療は①開胸での動脈瘤切除、人工血管置換術②血管内治療(ステントグラフト内挿術)−の2種類である。人工血管置換術は胸骨正中切開または左開胸で行う。手術創は非常に大きく、人工血管の置換には複雑な手技が必要となるが、長期再手術回避率は非常に高い(5年で100%、8年で83.3%)。

 カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステムは、弓部分枝に対応するフェネストレーション(開窓)を有し、患者に合わせてセミカスタムメイドで使用できることが特徴。鼠径部からカテーテルで導入して透視下で展開、内部のガイドワイヤなどを抜去して完了となる。開窓が弓部分枝と合致し、血流を保ちつつ大動脈瘤への血流だけを止めることができる。

 同システムによる施術症例は、発売(2013年)から年間200例前後で推移している。同ステントグラフト留置後の追加治療回避率は、開胸手術に比べて若干低いものの良好な成績である。費用効果の面から同システムと開胸手術を比較すると、材料費は同システムの方が高いが(335.8万円対149.5万円)、入院日数(14.6日対40.1日)、集中治療室(ICU)滞在日数(2.3日対4.4日)、手術技術料(59.5万円対165万円)などは同システムが優位で、総入院費は497万円対630万円となり、同システムの方が有意に少ない。

 同氏は「動脈瘤の部位によっては開胸手術しか行えない場合もあるが、症例を選べば同システムの費用効果は十分に高い」と結論。「開胸術とステント術は点数が同じだが、同システムはより高度の技術を要し開胸とほぼ同等の効果があり、費用が少なく入院期間も短いことから、今後はより高い評価をしてもらう方向で理論的な準備をすることを考えている」と述べた。


経皮的内視鏡下椎間板摘出術:高コストだが日帰り可能などのメリット

 日本整形外科学会からは、品川志匠会病院(東京都)副院長の平泉裕氏が経皮的内視鏡下椎間板摘出術(PED)について報告した。従来のオープンによる椎間板ヘルニア切除術(Love法)に加え、内視鏡下椎間板摘出術(MED法)は10年以上前から日本でも普及している。脊椎の中にある脊髄神経は骨に囲まれているため、通常は椎弓を切除した後にその中のヘルニアを摘出することになる。

 しかし、PEDでは骨と骨の隙間(椎弓間孔または椎間孔)にマイクロ内視鏡を挿入して治療を行うため、骨を削る必要がなく、脂肪組織の切除も必要ない。手術は局所麻酔下で行われ、放射線透視下でミリ単位で角度と距離を決めてカニューレを挿入する。通常の手術が困難な肥満の患者に対してもスムーズな手術が可能。術創はLove法の約5cm、MED法の約2cmに対しPEDでは5mm程度で、縫合もひと針で済む。術後の傷の痛みも少ない。

 PEDの初期導入費用は、スコープ170万円に加え光学系のユニットは100万円を超えるものも多く、全てそろえると定価(消費税込み)で1,749万6,756円。2014年4月からの2年間で、同院における消耗材料や破損によるランニングコストは1,063万5,191円であった。PEDで使用する機器は細くて長いものが多く、壊れやすいためランニングコストがかかることが難点だという。

 現在、診療報酬点数における内視鏡下椎間板摘出(切除)術は1例当たり30万3,900円であるが、実際の手術では材料費、人件費などを合わせた費用は約48万円で、約18万円の赤字になる。減価償却費などを加えるとさらに赤字がかさみ、1例当たり40万円以上の赤字となる。

 PEDは費用がかかる手術ではあるが、低侵襲性のメリットは非常に大きく、神経根癒着の防止に有効で靭帯、脂肪、血管など周辺組織も温存できる。患者は術後すぐに歩行が可能で、手術当日または翌日に退院できる。術後の疼痛抑制や職場復帰に関しても良好な施術といえる。また、合併症も少ない。入院期間はLove法の約24日、MED法の約8.2日に対しPEDでは手術当日、翌日に退院が可能なため、入院費削減に大きなメリットがある。



 今回紹介された3つの手技は、いずれも初期投資が現在の外保連試案では十分に評価できておらず、手術時間の短縮により手術費用が減点されてしまう。外保連では、これらを費用効果など新たな評価軸を用いることで、適正な評価につなげることを考えていかなければならないとしている。 





う~ん、非常に興味深い記事です。外保連は、手術報酬に関する外保連試案(手術試案)において、高額な手術に関しては「費用効果」という新しい評価軸で対応すると述べました。


この新しい評価軸は、日本の医療財政と医療技術発展の双方に資する、非常に有意義な方針だと思います。実現すれば、高度医療を実践する医療機関の福音になりそうですね。


実際に、上の例で挙げられた腎部分切除術のロボット支援手術(da Vinciサージカルシステム)では、1件あたり50万円ほどの赤字になる結果だそうです。


年間施術件数を130例の場合、導入後の5年間は「人件費を除外した医療機器費用=診療報酬額」という驚くべき状況です。つまり、全員タダ働きを強いられているのと同然です。


また、整形外科関連の経皮的内視鏡下椎間板摘出術(PED)でも、1件あたり40万円ほどの赤字となっています。これでは何のために手術をしているのか分からない状況ですね。


これらの先進手術の医療機器費用を、正当に評価した診療報酬に改訂しても、トータルで見た場合には医療費の削減効果があるようです。


そうであれば、手術試案に「費用効果」という新しい評価軸を導入しない手はありません。医療機関の善意に頼る医療制度では、継続性は得られません。


高度な医療技術に対して相応の対価を準備することが、日本の医療財政と医療技術発展に資する大きなポイントだと思います。





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