数ヵ月前に、右手関節から手指に限局した関節炎の患者さんが来院しました。特に外傷の既往はなく、数日で発症したとのことです。腫脹が右前腕から手指にかけてあります。
当初、UAが高かったため痛風を疑ったのですが、関節炎がいっこうに軽快しません。精査のためにMRIを施行したのですが、どうやら遠位橈尺関節および腱鞘周囲炎があります。
屈筋腱・伸筋腱とも腱鞘に水腫があるため、結核やMAC感染症ではなさそうです。念のために施行した T-SPOTや MAC抗体は陰性でした。
ACPA、RFは陰性ですが、CRP/ESR、MMP-3はいずれも高値です。ACR/EULAR 2010では、4点ですが、臨床的にはRAを強く疑います。いわゆる seronegative RAでしょうか。
一応、日本リウマチ学会専門医ではあるものの、seronegative RAの診断を下すのはいつも少しプレッシャーを感じます...。本チャンのリウマチ医から見ると失笑モノでしょう。
仮に診断を seronegative RAだとした場合、治療が問題になります。seronegative RAであっても、基本的には治療のアルゴリズムは通常の RAと同じです。
そして、この方は運悪く腎機能が悪かったのです。eGFRが30 mL/min前後なので、MTXを処方することもはばかられます。
弱気に2 ㎎処方しましたが効果が無いため、早期に生物学的製剤へスイッチしました。seronegative RA+腎機能障害のため、診断に確証を持てないまま生物学的製剤の導入です。
幸い、生物学的製剤を投与開始すると症状は劇的に完全したので、患者さんにはいたく感謝されました。結果オーライですが、今回は運が良かっただけかもしれません。
外科系医師として手術のプレッシャーは毎日のように感じていますが、内科的な治療でもプレッシャーを感じます。う~ん、私の精神構造は医師向きではないのかもしれません...
関節リウマチ
先日、母校の大学病院から関節リウマチ患者の THA症例をご紹介いただきました。すでに予定手術受入れ制限が発動されており、大学での手術が中止されたことが紹介理由です。
かなりの難症例なので、通常であれば大学病院での手術が望ましいのですが、コロナ禍で逼迫した医療情勢のため仕方ありません。
診療情報提供書をみると、関節リウマチに対しては MTX+ABT皮下注製剤でコントロールされているようです。
一応、私もリウマチ専門医ですが、術前の休薬期間どうだったっけ???と戸惑ってしまいました。たしか、MTXは継続投与、生物学的製剤は1ヵ月前ぐらいから休薬だったかな?
このような時に助けになるのは整形外科医のブログです(笑)。何と言っても当ブログは「自分の診療備忘録」として始めたので、自分の weak pointはたいてい網羅されています。
「生物学的製剤」で当ブログ内を検索とすると、すぐに下記がヒットしました。
この記事では、いかにも私が忘れていそうなことが詳細に記されていました。本当に忘れているところが笑えないのですが...。
ポイントは下記のごとくです。
- MTX:12mg / 週以下では継続投与が望ましい。
- 12mg / 週超では個々の症例で判断 生物学的製剤:半減期を考慮した休薬
ちなみに、ABT皮下注製剤は術前 2週間の休薬でした。診療情報提供書に記載されている推奨休薬期間とぴったり符合します。さすが、大学の先生...
関節リウマチの寛解基準では、ACR/EULARによる2011年版寛解基準が有名です。この寛解基準は、Boolean型定義やBoolean寛解と呼ばれており、下記のごとくです。
- 腫脹関節数 ≦ 1
- 圧痛関節数 ≦ 1
- 患者疾患活動性全般評価(VASで0~10cm) ≦ 1
- CRP ≦ 1
かなり厳しい寛解基準なので「Boolean先生、コレはちょっとキツイですよ~」と思っていました。しかし、Boolean=医師ではないようです。
医師でないどころか、ヒトでさえないようです。関節リウマチの論文を作成している人が言っていたのですが、どうやら Booleanは数学の概念のようです。
Boolean logicは、George Boole氏という英国の数学者が提唱した数学の古典理論です。そんな数学的な論理を応用した寛解基準が、Boolean型定義というわけです。
実際、私自身はアホなので、ACR/EULARによる2011年版寛解基準の中で Boolean logicがどのように応用されているのか理解していません(笑)。
それでも、Boolean=医師ではないという事実は、私にとってトリビアでした。
自分のバカさを理解しているので、時間のあるときに Monthly Book Orthopaedicsを乱読するようにしています。今回は、Vol.32(13) のリウマチ薬物療法の基本的な考え方 です。
2010年の ACR/EULAR RA分類基準や T2T recommendationsから、2011年の ACR/EULAR 寛解基準、EULAR recommendation 2016 updateまで体系的に網羅されています。
これに加えて、日本の実情に即した JCRによる関節リウマチ診療ガイドライン2014が紹介されています。以下で、私が見落としていた点を備忘録として記載します。
de novo肝炎について
全例で HBs抗原のスクリーニングを行うことは当たり前ですが、HBs抗原が陽性の場合には専門医(消化器内科)を紹介すると記載されていました。
あれっ、HBs抗原陽性患者さんには、HBe抗原、HBe高麗、HBV-DNA定量を測定し、基準値以上の場合は、主治医にて核酸アナログ製剤処方する、じゃなかったのか???
上記はどうやら日本肝臓学会の古いガイドラインだったようです。たしかに整形外科医がよく分かっていないのに、バカ高い核酸アナログ製剤を処方するのもどうかと思います。
HBs抗原陽性症例を消化器内科医師に紹介するだけなのは楽でいいですが、消化器内科医師といっても肝臓専門とは限らないので、本当にこんなのでいいのでしょうか?
まぁ、最近では B型肝炎症例はすべて公的基幹病院の膠原病内科に紹介するようにしているので、今後は大手を振って紹介できます...。
MTX、バイオ製剤、JAK阻害剤治療開始時のスクリーニング検査
必要に応じてですが、T-スポットやβ-D-グルカンに加えて、抗MAC-GPL IgA抗体も測定とありました。そうか、肺MAC症も除外診断しなければいけないんだな...。
ちょこちょこ抜けている知識があったので、こりゃマズイなあと感じました。全然アップデートできていなかったようです。不勉強を反省ですね。
新型コロナ肺炎騒ぎが意外なところ(?)に波及しました。マスクの品薄状態が、あろうことか病院業務にまで支障をきたすレベルになってきたのです!
マスクが品薄なのはニュースで知っていましたが、それは世間の話であり、病院には関係ないと思っていました。
ところが、院内のマスク在庫が逼迫しており入荷目途が立たないとのことです...。これでは手術にまで支障をきたします。
そもそも論ですが、マスクを装着しても粗すぎるのでウイルス感染を防ぐことができません。せいぜい気道を保湿することで、気休め程度の予防効果を期待するぐらいです。
もちろん感冒症状のある人が、飛沫を通じて周囲にウイルスを撒き散らさないようにする予防効果はあります。しかし、他人からの感染に対する予防効果はほとんど無いのです。
街でマスクをしている人をみると「情弱だな~」と思っていましたが、社会現象にまで発展すると医療機関の業務に支障をきたすので単なる情弱では済ませられません。
マスクするぐらいなら、①手洗い ②うがい ③充分な睡眠 ④人混みに近付かない を実践するべきでしょう。願わくば、正しい医学知識が世の中に広まりますように...。
- 今日:
- 昨日:
- 累計: