今日の午前の手術は、人工股関節全置換術(THA)でした。
非手術側が高位脱臼股(Crowe grade 2)のため、脚長差が3cm程度ありました。これを代償するため、立位AP像での骨盤の傾きが床面に対して10度ほど形成されています。
腰椎は高度の変性側彎をきたしており、左右側屈の動態撮影でも可動性に乏しいタイプのspondylosisでした。典型的なsecondary hip-spine syndromeです。
腰椎の変性が高度でなければ、股関節の脚長をそろえることで骨盤の傾きも矯正できます。
しかし、今回のように高度の変性側彎をきたすようなタイプのspondylosisでは、骨盤の傾きが残存することが予想されます。
したがって、今回の術前計画では骨盤の傾きを10度として、カップの外方傾斜角を35度に設定しました。かなりカップ外側が寛骨臼からはみ出ますが、骨移植で対応しました。術後X線像では、狙いどおりにカップ外方傾斜角度は35度でした。
hip-spine syndromeの概念がでるまでは外方傾斜角を全例40度に設定していました。しかし、現在では骨盤傾斜に異常をきたすような変性側彎を併発している症例には、骨盤傾斜を考慮に入れたカップ設置角度にしています。
日整会誌に第84回日本整形外科学会で教育研修講演予定だった
横浜市立大学の稲葉先生の論文がありました。
お題は”感染人工関節の新しい診断法と治療戦略”です。
興味深い内容だったので、要約します。
診 断
・ 感染人工関節の術前診断は、無菌性ゆるみと鑑別困難な場合がある
・ 18F-fluoride PETの集積部位で、感染巣の部位を判断することが可能
・ 凍結切片を用いた迅速病理組織診断
→ 好中球が強拡大視野あたり10個以上、5視野以上)で感度67%、特異度90%
・ リアルタイムPCR法(MRS-PCR, universal PCRの2種類を同時施行する)
治 療
・ 海外では抗菌薬含有セメント(ALAC)が市販されているが、本邦では使用不可
・ 抗菌薬含有セメントスペーサーでは鎮静化を得られない症例に対しては、抗菌薬充填HABが望ましい
・ 長期間にわたり抗菌薬を徐放すること、および熱による不活化がおこらないことが抗菌薬充填HABの長所
雑 感
・ PETを感染の診断にもちいているようですが、保険の問題から一般病院では難しいです。
・ 同様にPCRも難しいのではないでしょうか。
・ 抗菌薬充填HABには、オリンパスのボーンセラムPを使用します。
・ 1個あたり31100円と高価ですが、たしかに感染を鎮静化する力は大きいように感じます。
化膿性脊椎炎+化膿性腸腰筋炎の方の治療を行っています。
糖尿病がベースのcompromised hostです。
発症当日から抗生剤治療を開始しています。
MRIの所見と併せて、腸腰筋膿瘍ではなく筋炎の状態であると考えています。
化膿性脊椎炎(椎間板炎)においては、同定される起因菌の半数以上が黄色ブドウ球菌です。
したがって、第一世代セフェムが第一選択の抗生剤となります。
今回の症例でも第一世代セフェムに感受性があるようで、劇的に炎症所見や症状が改善しつつあります。今後どのタイミングで抗生剤を終了するかが問題になります。
3-4週間は最低でも投与続けるべきとの文献が多いようです。今回のように初期の段階で炎症所見が劇的に低下しても、CRPが完全には正常範囲内にならないケースが多いです。
したがってCRPが正常範囲内になるまで投与すると、自然に3-4週は掛かるケースが多いように感じます。
いずれにせよ、血流が豊富な脊椎や筋肉に感染を併発するのは、尋常なことではありません。
私の場合、幸い年に1例程度しか経験しませんが、いつも治療するにあたっては緊張します。
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