先週ですが、老健施設入所中の90歳台の方が大腿骨転子部骨折で入院されました。
この方は、寝たきりの方で健側の股関節に伸展が-10度ほどの軽度の拘縮を認めました。


入院される1日前から股関節部の腫脹が出現したようで、典型的な「オムツ骨折」だと思います。いつものごとく、当日手術の準備を整えて手術室に入室してもらいました。


麻酔下に牽引手術台の載せたのですが、ここで問題が発生しました。透視下に見ると、患側の大腿骨頭がほとんど動かないのです。下肢を牽引して動かすと骨折部で末梢側が動きます。


解剖的な大腿骨近位部の形態に整復しようとすると股関節屈曲60度、外転20度、外旋40度ぐらいの肢位になってしまいます。更に、患側の膝関節も拘縮して-60度以上伸展しません・・・。


これにはほとほと困ってしまいました。健側が他動的にはそれなりに伸展できたので、ここまで高度な患側の拘縮を予想していませんでした。単純X線像ではかなりの粗鬆骨です。


このため、仮に股関節屈曲60度、外転20度、外旋40度で骨接合しても、すぐにカットアウトするか別の部位で骨折する可能性が極めて高いことが容易に予想できます。


これらを考慮した結果、全身麻酔を施行した後ではありますが、手術不能と判断せざるを得ませんでした。ご家族には上記を説明申し上げて了承を得ましたが、なんとなく後味が悪いです。


後から検討しても、術前の段階で100%手術が不可能であることを判断することは困難だという結論に達しました。やはり、最終判断は麻酔下にしか下せないと思います。


ひとつのヒントとして、患側の膝関節に高度の拘縮を認める場合には、高度の股関節拘縮も存在する可能性を考慮するべきかもしれません。


このような「オムツ骨折」では、術前の手術説明の際に、拘縮が高度で手術が施行できない可能性があることを、ご家族にあらかじめ説明申し上げておくべきことを学びました。



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