Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
手術前後や手術中に音楽を聴くと術後疼痛や不安が軽減 です。




英・Brunel UniversityのJenny Hole氏らは,約7,000例のデータを組み入れた包括的なレビューの結果,手術前後や手術中に患者に音楽を聴かせることで術後疼痛や不安が有意に軽減し,鎮痛薬使用量が減少する可能性が示唆されたとLancetで報告した。


今回の研究では,なんらかの手術を受けた成人を対象に,音楽と標準ケアもしくは音楽以外の非薬物介入(マッサージ,リラクゼーションなど)とで術後の回復への影響を比較したランダム化試験の既報全てをレビューし,メタ解析に組み入れた。  


72件約7,000例のデータを解析した結果,音楽を聴かせた群では,術後の不安が有意に低下し〔試験開始時の標準化平均差(SMD)−0.68,95%CI −0.95~−0.41〕,満足度が有意に高かった(同1.09,0.51~1.68)。


また,音楽を聴かせた群では,対照群と比べ鎮痛薬の使用が低下し(SMD −0.37,95%CI −0.54~−0.20),疼痛の訴えが有意に減少した(同−0.77,−0.99~−0.56)。音楽を聴かせるタイミングは有効性には関係なかったが,術中や術後よりも術前に聴かせる方が良い結果が得られる傾向にあった。


患者自身が音楽を選択した場合,疼痛の軽減と鎮痛薬減少の程度が,有意ではないものの若干高くなった。意外であったのは,全身麻酔下で音楽を聴かせても患者の主観的な疼痛は軽減されたことである。もっとも,覚醒下で聴かせる方が効果は大きかった。音楽は入院期間の短縮にはつながらなかった。  


研究責任者で同大学のCatherine Meads氏は「米国では年間5,100万件以上,英国では年間約460万件の手術が施行されている。音楽を聴かせることは非侵襲的で,安全かつ安価な介入であり,手術患者全員に提供すべきである。音楽の便益を最大限に高めるため,医療チームのコミュニケーションの邪魔にならない範囲で,患者自身に好きな音楽を選ばせるとよい」と述べている。


オーストラリア・Bond UniversityのPaul Glasziou氏は,Lancetの付随論評で,16世紀ドイツの宗教改革者で,自ら賛美歌の作詞・作曲をしたマルティン・ルターの「病に伏しているとき,疲労困憊しているときに,音楽はいつも私を癒やし元気付けてくれた」という言葉を引用し,「私生活でこうした癒やしが得られるなら,病院においても得られないはずがない」と指摘。「音楽は簡便で安価な介入方法であり,手術患者の多くが感じる一時的な不快感を軽減してくれる」ことを示したと,今回の研究を評価した。  


さらに「ただし,入院期間に有意な影響がなかったことに病院経営者はがっかりしたかもしれない。一方,同様の効果を生み出す薬剤は大ヒット商品になるかもしれない」とウィットたっぷりのコメントを添えた。  


また,今回組み入れられた試験には,患者の年齢,手術や処置の種類,麻酔の種類などの条件に大きな異質性があるため,「効果を最大化する方法などについてはさらなる研究の余地があり,得られた知見を直ちに臨床応用することは困難である」ことや,患者によって音楽の好みが大きく異なるため,有線放送で音楽を流すような導入は難しいことにも触れた。  


その上で「それでも常識的な範囲での臨床適用はすぐに始めるべきで,私も次に手術を受けるときはモーツァルトの音楽と本論文のコピーを持参しようと思う」と締めくくっている。





なかなか興味深い論文ですね。手術中にかける音楽(BGM)は手術室のスタッフのパフォーマンス向上に有効と考えられています。


英国では外科医の90%が手術中にBGMを流しているとのデータまであるそうで、手術中のBGMは洋の東西を問わず臨床の現場に浸透しています。


これまでの報告は主に外科医などの医療従事者への影響が研究対象ですが、今回の報告は患者さんへの影響が研究対象であることが斬新な切り口です。


この報告のように、本当に患者さんの術後疼痛や不安が有意に軽減して鎮痛薬使用量が減少するのなら、ほぼノーコストで実行可能なことなので素晴らしいことだと思います。


ちなみに、私の勤務する病院では術中にBGMを流す習慣はありません。この論文と伴に「術中に音楽を流そう!」と言っても、自分が聴きたいだけだろう!と白い目で見られそうです(笑)。



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