日本整形外科学会誌 90: 229-236 2016の教育研修講座の「骨・軟部腫瘍の診療におけるピットフォール」を拝読しました。副題は、腫瘍が怖くなくなるために です。


今回の教育研修講座は新潟大学の生越章先生の講演で、腫瘍が怖くなくなることを目的に骨・軟部腫瘍診療におけるピットフォールを紹介されていました。


生越先生は私見と断りつつも、骨腫瘍のピットフォールは腫瘍の存在を見出せないことがある点を強調されています。主な骨腫瘍診断のピットフォールは下記のごとくです。


1. 痛みと腫瘍の部位が一致しない例がある
  • 骨盤腫瘍の膝痛・大腿部痛
  • 胸椎腫瘍の腰痛・側腹部痛
2. 単純X線像・CTでは腫瘍の存在が分からない例がある
  • 骨梁浸潤型腫瘍の存在 → 悪性リンパ腫、小細胞がん、Ewing肉腫
3. 悪性腫瘍でも血液・生化学データが正常なことも多い
4. 強力な疼痛緩和薬が腫瘍発見を遅らせる可能性がある




一方、軟部腫瘍では悪性を良性と勝手に判断してしまう点を強調されています。主な軟部腫瘍診断のピットフォールは下記のごとくです。


1. 悪性を良性と判断して、不適切手術を施行される例
  • 術前画像がないと追加広範切除の計画が困難
  • 手術による腫瘍汚染のため、追加手術は大がかりな切除になる
2. 悪性を良性と判断し、「放っておいてもよい」「心配ない」と告げられる例
  • その後、患者は医療機関をなかなか受診しない
3. 悪性腫瘍を非腫瘍性疾患と判断され、治療が遅れる例
  • 炎症や観戦・血腫などと判断されてしまう


上記の①②は、悪性軟部腫瘍を良性と勝手に判断してしまったことによって起こってしまう問題です。具体例を挙げられていて、私自身も身につまされる思いです・・・




軟部腫瘍診断のポイントは下記のごとくです。意外な項目が並んでいることに驚きます。触診だけで脂肪腫と確定診断する技能を持ち合わせていないと述べられていることは傾聴に値します。


1. 小さな軟部肉腫は多い
  • 軟部肉腫の1/4は治療時5cm以下である
  • 良性腫瘍が大きくなって悪性になるのではない
2. 柔らかい軟部肉腫も多い
  • 粘液成分の多い肉腫は、触診で脂肪腫や噴流に類似する
3. 境界明瞭な軟部肉腫も多い
4. 可動性良好な軟部肉腫も多い
5. 良性か悪性かを考えるのではなく、「腫瘍が何か」を考えるべき


上記の①~④は全て私にとってはトリビアです。そして⑤は非学の身としては難しい・・・。やはり軟部腫瘍の診断は、骨腫瘍の診断に比べてかなり難しい印象です。


最後に生越先生は、プライマリケアにあたる医師は、ここまでは自分で診断できるという分野を自分で設定し、それ以外のところは専門医に任せるというスタンスを推奨されています。




参考: 私が実践する骨軟部腫瘍診察の基本






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