整形外科医と言えども、受け持ち患者さんの急変に遭遇することがあります。
あらかじめ予想していない患者さんが、不幸な転帰を辿った際には大きな問題になります。


主治医は目の前の患者さんの救命や家族への対応に忙殺されますが、仮に患者さんが死亡した場合には、警察に届け出するか否かの判断を迫られます。


医師法21条は、「医師は、死体又は妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と規定しています。


この届け出るべき「異状死」とは何かについて、しばしば混乱が生じていました。しかし、2004年4月13日の最高裁判所判決で、下記のような判決が出ました。


医師法21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かは問わないと解するのが相当であり、これと同旨の現判断は正当(※)


※ 東京高等裁判所判決2003年5月19日




つまり、診療関連の死亡事故が発生しても、検案の際に死因を判定するために死体の外表を検査して異状がなければ、医師法第21条に規定する警察への届出義務の対象ではないのです。


「死亡に至る過程が異状であった場合にも異状死体の届け出をすべき」という「医師法第21条」を拡大解釈した誤った記述は下記のごとくで、今日に至るまでその内容は改められていません。

  • 日本法医学会異状死ガイドライン」(94年5月)
  • 日本法医学会『異状死ガイドライン』についての見解(09年9月)
  • 日本外科学会ガイドライン」(02年7月)



この不作為のため、医療機関は本来警察署への届出を必要としない診療関連による死亡事故についても届け出を行い、このため医療事故立件送致数が増加しています。


死体を外から確認し、外表に異状があれば警察へ届け出、異状がなければ届け出る必要が無いというのが最高裁判所の判断であり、死亡が医療に起因しているか否かは無関係です



この点は、自分の身を守るためにも医師が知っておく知識だと思います。医療事故が免責になるわけではないですが、余計なことをして更に自分の立場を悪くする必要はないと思います。




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