日常臨床では胸腰移行部の椎体骨折のために後弯変形をきたした症例を頻回に診ますが、客観的評価はどうすればよいのでしょうか。
脊椎外科医にお伺いすると、脊柱だけでなく骨盤も含めた global balanceの評価が一般的とのことでした。恥ずかしながら global balanceという概念は初めて聞きました...。
体幹の矢状面の global balanceの指標のひとつに、C7椎体中心から降ろした垂線(C7 plumb line: C7PL)と仙骨岬角の距離(C7PLシフト)があります。

稲見 聡: Dokkyo Journal of Medical Sciences 38巻3号 Page307-311より転載
Scoliosis Research Society(SRS)は、成人脊柱変形の各パラメーターの基準値を示しており、C7PLシフトが5㎝以上を異常値としています。
脊柱後弯変形では、バランスの円錐(cone of economy)という概念もありますが、素人的には具体的な指標を挙げている global balanceの方がクリアカットに思えます。
しかし、C7PLは global balanceの評価において絶対的なものではなく、静的な状態を捉えているに過ぎず、背筋に負荷がかかり疲れて後弯になる易疲労性の減少は捉えられません。
また、global balanceの維持には体幹筋が重要ですが、特に女性においては 30歳台をピークにして、筋力が減少していきます。
さらに、若年者の椎体骨折では局所後弯が進行しても、脊柱の代償機構により C7PLが異常値として算出されにくいという問題点もあります。
global balanceは重要な概念ですが、背筋や骨盤の代償機構が介在します。このため臨床的には絶対的なアライメント不良をもたらす椎体骨折の変形程度の方が重要だと思いました。
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。