先日、認知症の高齢者が転倒してから歩くのが困難になったということで初診されました。しかし、単純X線像では大腿骨頚部、恥骨坐骨とも骨折を認めません。


身体所見は大転子には圧痛なしですが、股関節の回旋時痛少々あり、軸圧痛無しという状況です。圧痛点は恥骨から鼠径部にかけてが最強点です。


このような状況の患者さんを目の前にして、あなたならどう判断するでしょうか。私は認知症患者さんに関しては、身体所見を極めて正確に取れると考えています。


彼らは痛みに対して正直です。一般の方であれば、何らかのバイアスや恐怖心のために、身体所見が曇りがちです。しかし、認知症の方は、ストレートに痛みに反応します。


このため、やはり骨折の可能性が極めて高く、それが大腿骨頚部か恥骨のどちらかであると判断しました。こうなると臨時でMRIを施行するのが吉です。


放射線科とかけあって臨時でMRIを撮像すると、大腿骨頚部の骨挫傷っぽい所見がありました。しかし関節内に水腫もしくは血種があるので、骨挫傷ではなく骨折と診断しました。


治療は当然ハンソンピンなどの骨接合術です。手術室とかけあって手術枠を確保しました。ここまで各部署との交渉はハードですが、すべての起点は患者さんの身体所見です。


認知症患者さんは、一般の方以上に正確な身体所見を取ることができる可能性が高い。覚えておいて損は無いのではないでしょうか。






管理人 お勧めの医学書


豊富な図や画像が提示されているため、ほとんどの骨折や脱臼に対応することが可能です