先日、私にとって古巣の某基幹病院の救急科から転院依頼がありました。転位のほぼ無い脛骨高原骨折なので、安静入院をとって欲しいとの依頼でした。
空きベッドがあったので受け入れたのですが、到着した患者さんが持参した画像所見を見て目を疑いました。単純X線では、自信をもって骨折していると言い難い所見なのです。
たしかに脛骨内顆の皮質が少し窪んでいます。しかし、これだけの所見で「脛骨高原骨折」と言い切るとは一体誰なんだ? と思って医師名を確認すると知った名前です。
10年ほど前まで、その基幹病院で一緒に働いていた整形外科系救急医だったのです。CTもあったのですが、冠状断しかありません。そして、CTでも骨折の所見はありません。
本来なら前額断や矢状断が欲しいところですが、殺人的な忙しさの病院なので CT再構成とか無理な状況なのは痛いほど分かります。
診察してみると、脛骨内顆に一致して主張と圧痛を認めます。確かに、これは脛骨内顆骨折だなと分かりました。しかし、私には堂々と傷病名を言って転院させる自信がありません。
CTを再施行して前額断や矢状断をみると、たしかに脛骨高原骨折(内顆骨折)でした。それにしても、恐ろしいほどハイレベルな診断能力です。
正直言って、基幹病院の救急科医師には、正確な整形外科的診断を期待していません。圧迫骨折の誤診(実際は陳旧性)など日常茶飯事です。
しかし、この整形外科系救急科医師は、私を超える診断能力を実地で証明しました。今回の症例の単純X線像と身体所見だけで、転院先に傷病名を伝える自信は、私にはありません。
整形外科医なら皆、自分が一番だと心のどこかで思っているはずです。しかし、私はこの後輩医師に(しかも半分は救急科医師に)負けたことを実感しました。
フツーだったら悔しいでしょうが、古巣の昔一緒に働いていた医師が、これほど優秀になっていることに少し誇らしくなりました。まさに地域の宝である医師なのでしょう。
豊富な図や画像が提示されているため、ほとんどの骨折や脱臼に対応することが可能です