Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
医学電子書籍の未来は?(上) です。
小説やマンガなどの一般向け電子書籍の市場が成長する一方で、医学書の電子書籍も普及が進んでいる。しかし、一般向けとは事情が少し異なる。医学電子書籍は今後どうなるのか。将来、医学書の概念や情報流通などを一変する可能性はあるのか。2回にわたってお届けする。
医学電子書籍で有名なのは、ジェイマックシステムが運営する販売サイトでん「M2PLUS」。他社に先駆けて医学電子書籍の販売を開始、33の出版社の約1,500コンテンツを販売、個人会員数8万人を誇る。販売しているのは、個人がスマートフォンやタブレットで利用する医学電子書籍。かさばる医学書や重い事典をどこにでも持ち歩けることなどが受け、会員数を増やしている。
それを追いかけるように2014年に販売を始めたのは、医学文献サービスの「メテオ」。約120の出版社の約3,300コンテンツを販売する。誰もが購入しやすいように会員制をとらず、また、1冊単位だけでなく章ごとの購入も可能にしている。価格は出版社側の意向で決まるが、紙の書籍よりも2割ほど安いという。同社の大きな特徴は、図書館などの施設向けサービスも展開していることだ。M2PLUSは個人向けのみだが、メテオは大学や病院の図書館などの施設と年間契約、施設の利用者は自由に検索、無制限に閲覧できる(電子書籍を施設が買い取る「買い切り制」など他の方式もある)。これまで施設向けに納入実績のある医学文献情報データベースの「メディカルオンライン」に医学電子書籍を載せた形だ。
同社取締役・コンテンツ部長の森本裕司氏は「医学文献検索は目的の情報に早くたどり着くことが大切。個人では書籍を買うにも量的に限界があるが、施設向けサービスでは、文献に加え電子書籍も収録されているので目的の情報にたどり着きやすい。また、医学書は繰り返し読んだり、複数を同時に参考にしたりすることが多いのでデータベースで閲覧する需要は高い」と施設向けサービスのメリットを強調する。同氏によると「医学電子書籍の市場はまだまだ小さい」。逆に言えば、まだまだ伸びる余地があることになる。個人向け、施設向け両方を展開している同社だが、施設向けサービスの成長が目覚ましく、個人向けの3倍ほどの売り上げがあるそうだ。
ビジネスモデルを変革する真の電子化とは?
医学書院、南江堂など5社が電子書籍販売のために2014年に設立した医書ジェーピーも、現在の個人向けに加え、今秋には医学電子雑誌、2018年以降に医学電子書籍を施設向けに販売する予定だ。同社取締役の金原俊氏は「施設が契約すれば、利用者全員の卓上に膨大な情報を抱えた図書館ができるようなもの」と例える。実際の図書館は利用時間の制限や貸し出し中の書籍があるなど不便も多い。電子化により多人数が大量の情報を効率的に共同利用することが可能になる。これが電子化のメリットであり、紙の書籍では到底できないことだ。
利用料は海外の英文出版と同様に、施設の種類や規模によって変更する料金体系を計画している。紙の書籍は個人でも施設でも同額だが、こうした料金体系にすることで、全ての書籍を無制限に閲覧させても十分に利益が出せる仕組みを設計できる。
施設利用者が個人で購読料を支払わずに使用できることも実は大切な点だ、と同氏は強調する。「無料で多量の情報が得られるインターネット時代に、情報に対する投資に期待して書籍を販売するビジネスモデルには限界がある。医学電子書籍の施設向けサービスはビジネスモデルの大変革。個人向けだけでは本格的な普及は見込めない。新しいビジネスモデルを定着させることで、真の医学電子書籍の普及期に入る」と言い切る。
研究室や自宅など、どこでも端末を通して、情報の海から目的とするものを短時間で効率良く探せる時代が来るかもしれない。
小説・漫画・週刊誌などの一般書籍の分野では、電子書籍はかなりのスピードで普及しています。これに比べて医学書の分野では、お世辞にも一般化しつつあるとは言えません。
オンラインジャーナルを除けば、紙ベースの医学書がまだまだ主流です。しかし、よく考えると、電子書籍には紙ベースの医学書には無い下記のようなメリットがあります。
- 携帯しやすい
- かさばらない
- 検索できる
医学書は重厚なものが多いため、すぐに本棚を埋め尽くしてしまいます。また、高価であるため断捨離することも憚れます。このため、医局の「モニュメント」と化すことが多いです。
また、分厚い医学書のどこに知りたい情報があるのかを、瞬時に検索できることも電子書籍のメリットです。しかし、メリットばかりではなく、下記のようなデメリットもあります。
- プラットフォームを提供してる企業がサービス提供を停止するリスク
- 俯瞰性がない
安価な漫画や雑誌ならいざ知らず、プラットフォームを提供していた企業の都合で、高価な医学書の閲覧サービスが中止されたら目も当てられません。
まだどこの会社が電子書籍のデファクトスタンダードを握るかが分からない状況では、この危惧が現実化する可能性は比較的高いと考えます。
あと、俯瞰性に乏しいため、創造性のある作業をする上では紙ベースの媒体に劣る印象です。ただし、この点については私の能力が古いだけかもしれませんが・・・
辞書の世界では紙ベースの辞書は駆逐されて、電子辞書が主流となっています。 医学書においても、医学辞書や単純な知識を得る目的の書籍から電子化は進むと予想します。