先日、大腿骨頚部骨折後の外傷性大腿骨頭壊死症に対する人工股関節全置換術(THA)がありました。内固定材料はハンソンピンです。
以前にハンソンピン後THAのうまい方法で、通常通り大腿骨頭を脱臼させて骨頭の上1/3をノミやリュエル鉗子で切除して、ハンソンピン先端から容易に抜去する話題がありました。
順行性にハンソンピンを抜去するので、抜釘のための皮切を追加する必要がないことがメリットです。まさにコロンブスの卵的な発想ですね!
ただし、自分では試したことが無いので、実践できる機会をうかがっていました。待つこと9ヵ月で再びハンソンピン後THAがやってきました。
実際にどんな感じだったかというと、たしかに脱臼して順行性にハンソンピンを抜去することは可能でした。しかし、想定外のトラブルがひとつ発生しました。
それはハンソンピン先端を展開して抜こうとしても、2本目がうまく抜けなかったことです。ハンソンピン先端をつまんで引っ張ってもなかなか抜けません。
最終的には一度奥に叩き込んでから引き抜くことで抜去できましたが、抜去したハンソンピンを観察すると、お尻部分にごくわずかな段差があります。
どうやらハンソンピン内部構造と外筒の境界のようです。このわずかな段差のために、外側骨皮質に引っ掛かって抜けなかったようです。
今までのように追加皮切は不要でしたが、予想していなかった小さな落とし穴がありました。やはり何事も一度はやってみないと分からないものですね...。
ハンソンピン
私は大腿骨頚部骨折の骨接合術では、ハンソンピンを使用しています。最近、ハンソンピンの刺入位置で少し悩むことがありました。
2本のピンの間隔は 10mm以上取りたいところですが、小柄な日本人の高齢女性ではなかなか10mm以上の間隔を取ることが難しい症例もあります。
このような症例では、2本目の中枢側ピンの刺入位置を
- 大腿骨骨軸に対して後方 45°を維持したまま 2本のピンの間隔を狭めるのか
- 大腿骨骨軸に対して後方 30°にして 2本のピンの間隔 10 mmをキープするのか
のどちらを選択するべきなのかが悩ましいところです。
私の場合には、大腿骨骨軸に対して後方 45°を維持するのではなく、2本のピンの間隔を優先することにしています。
つまり、2本目のピンを 10 mm間隔ではどうしても刺入できない場合には、大腿骨骨軸に対して 30°ぐらいにして、なんとか 2本のピンの間隔を10 mm確保するようにしています。
本当にこれでいいのかどうかはわかりませんが、2本のピンの間隔が広いほどハンソンピンの固定力が増すのではないかと考えています。
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先日の 抜釘後THAのピットフォール のつづきです。
コメントでコロンブスの卵的な方法を教えていただきました。
まずは、s123 先生からのコメントです。
ハンソンピン後のTHAは通常のアプローチで大腿骨頭を脱臼させて,骨頭の 上1/3をノミやリュエル鉗子で削除するとハンソンピンの先端から容易に抜去できるので抜釘のための皮切を追加する必要はありません.もちろんハンソンピン以外のインプラントは抜釘のための追加皮切が必要です.
次にいっしー先生からのコメントです。
ハンソンピン術後で骨頭に圧壊をきたしている場合、まず、抜釘を行わずTHAのアプローチで骨頭を脱臼させた後にピンのフック周りの骨をリウエルで切除して、順行生にピンを抜去する方法もあります。THA、人工骨頭入れ替えで私はいつもこの方法でやっていました。参考までに。
う~ん、なんて頭の良いスマートな方法なのでしょう! ハンソンピンを愛用している医師には必須の知識だと思いました。
実施する機会が無いことを祈りつつも、次回からはこの方法でTHAを施行したいと思います。ご教示いただきありがとうございました!
先日、大腿骨頚部骨折に対する手術がありました。
選択した内固定材料は、ハンソンピンです。
ハンソンピンによる骨接合術は、非常にオーソドックスな手術だと思います。しかし、思わぬところで足をすくわれたので、その pitfallを共有したいと思います。
イメージを見ながら、普通にハンソンピンを挿入したのですが、中枢側のピンが80mm、末梢側のピンが100mmでした。2本の長さの差は、20mmもあります。
通常、2本のピンの長さの差は、10mm もしくは15mmしかありません。しかし、なぜか今回は、20mmと比較的大きな差ができてしまいました。
少しおかしいな? と思ったものの、術中イメージはそれほど問題無いという判断で手術を終了しましました。
ところが、その術後単純X線像を確認すると、中枢側のピンが少し短いのです。中枢側のピンが、あと5mm長ければ通常の術後単純X線像です。
しかし、中枢側のピンが5mm短いため、やや不細工な術後単純X線像になってしまいました。おそらく術後成績にはあまり関係ないとは思いますが、何となく格好悪いです。
2本の長さの差が20mm以上では、中枢側のピンが少し短い可能性があります。このような場合には注意が必要かなと感じました。
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1年前のことですが、50歳台の患者さんが転倒して大腿骨頚部骨折を受傷しました。単純X線像ではGarden stage 3でしたが、若年だったのでハンソンピンで緊急手術を施行しました。
そして、術後3ヶ月後に股関節のMRIを撮像したところ、残念ながらtype C2の広範な大腿骨頭壊死を併発していました。受傷後5時間以内に手術を施行したのに残念です。
壊死を併発したのは仕方ないですが、内固定材を抜釘するべきか否かで迷っています。大腿骨頭壊死症でtype C2の場合、10年以内に50%程度の確率で大腿骨頭の圧潰を来たします。
今回の患者さんはやや大柄な男性なので、比較的早期に圧潰が発生することが予想されます。ただ、現時点では全く何の症状もありません。
下肢の骨折手術後の抜釘術は、術後1年前後で施行するケースが多いです。しかし、いずれ大腿骨頭が圧潰することが予想されるので、THAを施行する際に抜釘することも可能です。
また、現在挿入されている内固定材が、ある程度は壊死骨の支柱となっている可能性も否定はできません。抜釘によって大腿骨頭圧潰が発生すると患者さんとの信頼関係が損なわれます。
このようなことを検討した結果、現在大腿骨頭に挿入されている内固定材(ハンソンピン)は、抜釘せずにこのまま置いておくことにしました。
そして、将来的に大腿骨頭の圧潰を併発すればカットアウトするリスクがあるので、早々に抜釘術とTHAを施行する方針です。できれば長期間にわたって圧潰せずにもって欲しいものです。
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