先日、近くにある某大学病院から、人工股関節全置換術後ステム周囲骨折の転院依頼がありました。診療情報提供書には Vancouver type Aなので全荷重可と記載されています。
すでに多発性の転移性腫瘍のため、ホスピスが視野に入る状況の患者さんのようです。Vancouver type Aなら問題ないかなと思って受け入れたのが災難の始まりです...。
患者さんと一緒にやってきた画像データには、単純X線像しかありません。嫌な予感がして股関節のCTを撮像すると、案の定、転子下にかけて少し転位のある骨折でした。
少なくとも Vancouver type B1で下手したら type B2です。たしかに前医で撮影した単純X線像では大転子単独骨折に見えるのですが、それだけで診断するのは少々軽率ですね...。
ちなみに、人工股関節全置換術後ステム周囲骨折のバンクーバー分類(The Vancouver Classification for Periprosthetic Fractures)は以下のごとくです。
バンクーバー分類
- type A 転子部
- type B1 ステム周囲 人工関節が安定
- type B2 ステム周囲 人工関節が不安定
- type B3 ステム周囲 骨質が不良で骨片が粉砕している
- type C ステムよりも遠位
一般的には下記のような治療方針が選択されます。
- type A 保存治療
- type B1 骨折観血的手術
- type B2 骨折観血的手術+再置換術
- type B3 骨折観血的手術+再置換術
- type C 骨折観血的手術
患者さんの痛がり方が尋常ではないので、やはり不安定性があるのでしょう。母校の大学ではないので、前医に文句も言えない状況です(苦笑)。
本来なら手術なのですが、全身状態と癌による予後を考えて、保存治療をせざるを得ません。患者さんと二人三脚の長い戦いの幕が切って落とされたようです。
初学者が股関節外科の基礎および治療体系を学習するにあたり最もお勧めの書籍です。日本を代表する執筆陣が股関節外科に関するあらゆる事項を、非常に分かりやすく解説しています。この1冊があれば股関節外科のほぼ全ての疑問点を解消できると思います。