先日、外来をしていると「背中が出っ張ってきた」という60歳台後半の女性が受診されました。
特に脊椎圧迫骨折の既往は無いようですが、確かに円背になってきています。
単純X線像で全脊椎立位2方向を施行したところ、脊椎アライメントの著明な後弯を認めました。特に椎体の変形は無いようですが、かなりインパクトのある脊椎後弯でした。
患者さんにも画像を見ていただいたのですが、「これが私の背骨ですか・・・」とかなりショックを受けた様子で非常に気の毒でした。今回はいわゆる”首下がり症候群”の初期像だと思います。
”首下がり”とは、座位や立位時に首が下がってしまう症状です。1986 年にLangeらが首下がりを呈した 12 例の症例を報告したのが最初です。
首下がり症候群では随意的に頚椎を伸展して首下がりを修正できることが多いですが、その姿勢を長続きすることができずに首が下ってしまいます。
この慢性的な首下がりのために視界が障害されて歩行し辛くなります。今回の患者さんの主訴は円背でしたが、歩行状態をみると軽度の首下がりがありました。
首下がりの生じる機序として、①前頚筋の過剰緊張 ②後屈筋の筋力低下 が考えられています。それぞれ下記の疾患が原因として挙げられます。これ以外にも変形性頚椎症があります。
① パーキンソン病、多系統萎縮症
② 重症筋無力症、多発性筋炎
首下がり症候群の治療について、一般的に次のように報告されています。
① 薬剤惹起を疑う場合には原因薬剤の中止(ドパミンアゴニストなど)
② ボツリヌス毒素注射やアルコールや局所麻酔薬によるモーターポイントブロック治療
③ 脳深部刺激法
しかし実際には①が問題なければ中下位頚椎から傾斜しているタイプには頚椎カラーを、頚胸椎移行部から傾斜しているタイプには鎖骨バンド固定を処方するケースが多いと思います。
頚椎カラーや鎖骨バンドの装着で歩行状態が改善するため、患者さんの満足度が上がります。しかし、今回は装具を装着するほど困っていないとのことだったので処方しませんでした。
根治的治療が難しい”首下がり”症候群ですが、頚椎カラーや鎖骨バンドの処方以外で何か良い治療法は無いものでしょうか?
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Critical thinking脊椎外科
パーキンソン病
Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
痛風患者はアルツハイマー病発症リスクが低い です。
米国のNa Lu氏らは、痛風と新規のアルツハイマー病(AD)発症リスクとの関連を検討した結果、痛風患者は非患者と比べAD発症リスクが低いことが確認されたと報告した。
今回の知見は,パーキンソン病(PD)において研究が進められている神経変性疾患に対する尿酸の保護作用を支持するものである。
痛風は最も一般的な関節炎で、心疾患や腎疾患リスクの上昇とも関連付けられている。高尿酸血症になんらかの因子が加わると痛風を発症するが、因子が不明なことも多い。
血中に過剰に存在する尿酸は結晶化して、それを白血球が攻撃して血管壁に著明な炎症が生じ激痛を呈する。
一方で,尿酸は健康な人の体内にも普通に存在する抗酸化物質でもあり、血漿中の抗酸化能の50%以上をつかさどっているとされる。
また,尿酸の酸化ストレスに対する保護作用がPDなどの神経変性疾患の発症に対し保護的に働くという説も提唱されている。酸化ストレスはAD発症にも関与している。
血管性認知症を含む認知症全般を対象に高尿酸血症との関連を示した前向き住民研究が以前に報告されていたが,ADのみを対象とした研究はなかった。
Lu氏らは「今回の知見から、痛風がADに対する保護作用を有する可能性がある。追認されればPD進行予防法開発の試みがADに対しても正当化されるであろう」と述べている。
恥ずかしながら、私は尿酸に酸化ストレスに対する保護作用があることを知りませんでした。尿酸=痛風 という認識だったので、尿酸=悪玉 というイメージを抱いていました。
実際、外来で治療している高尿酸血症の患者は、暴飲暴食傾向の方が多いため決してイメージは良くありません。しかし、今回の知見で尿酸に対する評価が180度ひっくり返ってしまいました。
尿酸に認知症を予防する効果が本当に見込めるようなら、ある程度の高尿酸血症を許容しても良いのかもしれませんね。
もちろん、だからと言って暴飲暴食は良くないでしょうし、高尿酸血症を放置して結晶性関節炎を繰り返すことも辛いものです。しかし、物事には両面あることを、今回の知見から学びました。
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一般的で使用頻度の高い、鎮痛薬・睡眠剤・感冒薬・胃薬・止痢薬・去痰薬・便秘薬等の薬剤が、全13章にわたって系統立てて書かれています。それぞれの章の最初に、薬剤の分類図が記載されています。各系統間の薬剤の使い分けも平易な文章で書かれており実践的な書籍です。
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姉妹本に『類似薬の使い分け』があります。こちらは全15章からなり、降圧剤、抗不整脈薬、狭心症治療薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬、消化性潰瘍治療薬、鎮咳薬、皮膚科疾患治療薬、抗菌薬などが1章ずつ割り当てられています。
類似薬の使い分け―症状に合った薬の選び方とその根拠がわかる
今日の午前中は外来でした。
他科からの”首下がり症候群”の対診依頼がありました。
”首下がり”とは、座位や立位時に首が下がってしまう症状です。1986 年にLangeらが首下がりを呈した 12 例の症例を報告したのが最初です。
首下がり症候群では随意的に頚椎を伸展して首下がりを修正できることが多いですが、その姿勢を長続きすることができずに首が下ってしまいます。
この慢性的な首下がりのために視界が障害されて歩行し辛くなります。今回の対診依頼の患者さんの主訴は、まさしく首下がりによる歩行困難でした。
また、首下がりのために嚥下困難などをきたすこともあるようです。首下がりは見た目の悪さだけではなく、日常生活動作が制限されてしまうことが問題です。
首下がりの生じる機序として、①前頚筋の過剰緊張 ②後屈筋の筋力低下 が考えられています。それぞれ下記の疾患が原因として挙げられます。これ以外にも変形性頚椎症があります。
① パーキンソン病、多系統萎縮症
② 重症筋無力症、多発性筋炎
首下がり症候群の治療について、一般的に次のように報告されています。
① 薬剤惹起を疑う場合には原因薬剤の中止(ドパミンアゴニストなど)
② ボツリヌス毒素注射やアルコールや局所麻酔薬によるモーターポイントブロック治療
③ 脳深部刺激法
しかし実際には①が問題なければ中下位頚椎から傾斜しているタイプには頚椎カラーを、頚胸椎移行部から傾斜しているタイプには鎖骨バンド固定を処方するケースが多いと思います。
頚椎カラーや鎖骨バンドの装着で歩行状態が改善するため、患者さんの満足度が上がります。このため私の場合は、それ以上の外来治療やフォローを行わないことが多いです。
手術適応はほぼ無いが、原因特定や根治的治療が難しい”首下がり”症候群・・・。
本当に、頚椎カラーや鎖骨バンドの処方でよいのでしょうか?
★★★ 管理人 お勧めの医学書 ★★★
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。
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