交通事故で整形外科外来を受診する患者さんは多いです。
しかし、外傷性頚部症候群の患者さんを診ることが嬉しい勤務医はあまり居ないと思います。
主観的な症状ばかりで、客観的な所見に乏しい患者さんがほとんどです。このため、詐病を疑うまではいかないものの、勤務医の立場からはちょっと勘弁してほしいと思ってしまいがちです。
勤務医の立場からは、受傷後1週間ぐらい経過しても明らかな神経学的異常所見や外傷の所見が無い患者さんは、できるだけ通院しないように仕向けるのが最適解です。
一方、交通事故患者さんの立場は全く異なります。自賠責や任意保険の入通院慰謝料には、通院期間および通院回数が大きな影響を及ぼします。特に通院回数は週2回以上が理想的です。
交通事故の患者さんが前回受診日から数日しか経過していないのに再診することがよくありますが、その理由はこの入通院慰謝料を考慮しての行動なのです。
私たちの立場では、症状が変わらないのに2日毎に受診されてはたまったものではありません。もちろん、患者さんも医師の厳しい視線を感じるので、2日毎に受診し続ける強者は少ないです。
しかし、充分な金額の入通院慰謝料を確保するためには、ある程度の通院回数が必須です。この結果として医師に顔を合わすことの無い物療に流れる患者さんが後を絶ちません。
このことが、交通事故患者さんが判で押したように物療を希望する理由です。更に交通事故患者を飯のタネにしている接骨院へ流れる患者さんが多いのも、このことが理由です。
何といっても、病院はできるだけ患者さんが再診しないように仕向ける一方で、接骨院は集患に熱心なので、交通事故患者さんが接骨院に流れるのは必定です。
しかし、ここで交通事故患者さんにとって大きな問題点が持ち上がります。後遺症診断書を作成できるのは医師だけなので、途中で接骨院に行っていた患者さんは極めて不利になります。
接骨院としては、通院回数を稼いだ後の交通事故患者さんのことなど知ったことではありません。一方、途中経過が全く不明な患者さんの後遺症診断書を作成するのは迷惑な話です。
医師も人間なので、このような患者さんとできるだけ関わらないようにします。このため、後遺症診断書作成を引き受ける場合でも、内容がシンプルで損保側を資する診断書になりがちです。
このように考えると、入通院慰謝料に目が眩んで接骨院に流れる行為は、より金額の大きな後遺障害慰謝料を捨ててしまう馬鹿げた行為ということになります。
では、もし自分が交通事故患者さんになったらどうすればよいかを考えてみました。私なら物療のある、比較的流行っていない開業医に通院すると思います。
さらに開業医の先生と仲良くなれば、後遺症診断書作成時にも何らかの便宜を図ってもらえるかもしれません。このように考えると、交通事故の最適解は開業医通院ということになりそうです。
自治医科大学准教授の星地先生の経験・知識を余すところなく収めたサブテキストです。定番と言われている教科書に記載されている内容は素直に信じてしまいがちですが、実臨床との”ズレ”を感じることがときどきあります。このような臨床家として感じる、「一体何が重要なのか」「何がわかっていないのか」「ツボは何なのか」を自らの経験に基づいて完結に述べられています。