先日、大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭挿入術を施行しました。
この方は80歳台後半で、転倒前は独歩可能だったとのことでした。
しかし、入院時から患肢を屈曲・内転させて動かしません。一応、単純X線像を撮影時には股関節を伸展できたので、特に気にも留めませんでした。
いざ、麻酔がかかって側臥位にしたときに患側股関節が外転しないことに気付きました。屈曲・内旋は問題なく可能なのですが、他動的にも伸展・外転・外旋しないのです。
股関節を外転しようとすると、内転筋群が著明に緊張します。どうやら受傷前から股関節の屈曲・内転拘縮があったようです。手術自体は屈曲・内旋できるため問題なく終了しました。
しかし、仰臥位にしても股関節は軽度の屈曲・内旋位のままです。他動でも股関節が外転しないので、やむを得ず経皮的に内転筋切離術を追加しました。
以前に、大腿骨転子部骨折で高度の股関節拘縮のため手術不能だったことがありました。その症例はオムツ骨折だったので、ある程度の予測が可能でした。
今回は転倒前は独歩だったので、股関節拘縮を予測することはかなり難しいと思います。結果的には術後も変わらず拘縮が残存したので、内転筋切離術を施行してようやく解除されました。
今回の経験から、受傷前のADLが独歩であっても股関節拘縮が存在する場合があることを学びました。高齢者の骨折はなかなか奥が深いものです。
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拘縮
先週にCrowe分類 type 2に対する人工股関節全置換術(THA)を施行しました。
高位脱臼の程度はさほどではないのですが関節拘縮が高度でした。
屈曲40-10-0、外転0--10--20と屈曲・内転拘縮していました。Crowe分類 type 2~3では大腿骨短縮骨切術を併用するか否かを検討しますが、今回は拘縮の解除が一番の問題でした。
通常通り、後方から進入して股関節を展開したのですが、大腿骨近位部の骨棘形成が著しいため全く脱臼することができませんでした。やむを得ずピース・バイ・ピースに骨棘を切除しました。
脱臼不可能なほど高度な大腿骨近位部の変形の方の手術では、いかにして大腿骨近位部を「造形」するかがポイントになります。骨棘を残したままでは脱臼も引き下げも不可能です。
しかし、骨切し過ぎると大転子骨折を併発したり、近位部が無くなってしまう可能性があります。感覚的には、芸術家が木の中から作品を彫り出す手技に近いと思います。
メルクマールになるものがあまり無いので、髄腔の位置から全体の構図を考えます。「髄腔がここにあるから、骨棘はこの程度まで骨切りしても問題無いな」といった地道な作業が必要です。
今回は、大腿骨近位部の「造形」以外にも関節包の全周性の輪状切開・大殿筋停止部の剥離・腸腰筋切離・大腿筋膜張筋延長など全てのオプションを選択して何とか終了しました。
結構疲れましたが、術後経過は良好なので苦労が報われます。このあたりは整形外科勤務医の醍醐味ですね。う~ん、やはり引退するのは、ちょっともったいないかなぁ(笑)。
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股関節学
先週ですが、老健施設入所中の90歳台の方が大腿骨転子部骨折で入院されました。
この方は、寝たきりの方で健側の股関節に伸展が-10度ほどの軽度の拘縮を認めました。
入院される1日前から股関節部の腫脹が出現したようで、典型的な「オムツ骨折」だと思います。いつものごとく、当日手術の準備を整えて手術室に入室してもらいました。
麻酔下に牽引手術台の載せたのですが、ここで問題が発生しました。透視下に見ると、患側の大腿骨頭がほとんど動かないのです。下肢を牽引して動かすと骨折部で末梢側が動きます。
解剖的な大腿骨近位部の形態に整復しようとすると股関節屈曲60度、外転20度、外旋40度ぐらいの肢位になってしまいます。更に、患側の膝関節も拘縮して-60度以上伸展しません・・・。
これにはほとほと困ってしまいました。健側が他動的にはそれなりに伸展できたので、ここまで高度な患側の拘縮を予想していませんでした。単純X線像ではかなりの粗鬆骨です。
このため、仮に股関節屈曲60度、外転20度、外旋40度で骨接合しても、すぐにカットアウトするか別の部位で骨折する可能性が極めて高いことが容易に予想できます。
これらを考慮した結果、全身麻酔を施行した後ではありますが、手術不能と判断せざるを得ませんでした。ご家族には上記を説明申し上げて了承を得ましたが、なんとなく後味が悪いです。
後から検討しても、術前の段階で100%手術が不可能であることを判断することは困難だという結論に達しました。やはり、最終判断は麻酔下にしか下せないと思います。
ひとつのヒントとして、患側の膝関節に高度の拘縮を認める場合には、高度の股関節拘縮も存在する可能性を考慮するべきかもしれません。
このような「オムツ骨折」では、術前の手術説明の際に、拘縮が高度で手術が施行できない可能性があることを、ご家族にあらかじめ説明申し上げておくべきことを学びました。
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AO法骨折治療
昨日の午後は尺骨肘頭骨折に対する関節内骨折観血的手術でした。
骨接合は鋼線締結法で行いました。
整形外科医にとって尺骨肘頭骨折は非常にポピュラーな骨折なので、粉砕が高度な場合を除いて術中に苦労する場面は少ないと思います。しかし、昨日の方は違いました。
受傷前から肘関節の伸展制限(屈曲拘縮)があったため、肘関節を-30度ぐらいまでしか伸展できなかったのです。どうも肘関節自体が高度に拘縮している可能性があります。
おまけに受傷から2週間近く経過していたため整復に難渋しました。整形外科常勤医が居ない病院からの転院患者さんで、術中所見から考えると受傷時期自体が怪しいものです。
いくら肘頭に停止する上腕三頭筋を剥離しても、骨折部の間隙が2cm程度あります。やむを得ず、アキレス腱延長の際に施行するZ延長術に準じた方法で上腕三頭筋を延長しました。
これで何とか肘頭骨片を整復することが可能となりましたが、尺骨肘頭骨折の手術に際して骨片間の間隙で苦労したことは初めての経験です。
後から考えると、手術せずにそのまま経過観察(=手術適応無し)が妥当だったのかもしれません。今後は肘関節拘縮が高度な症例では、手術適応を慎重に見極めたいと思います。
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昨日の午前の手術は、人工股関節全置換術(THA)でした。
この方は、著明な外転拘縮をきたした骨増殖性OAでした。
術前から可動域が小さい方は、難しい手術になることが多いです。拘縮の原因は骨性であることが多く、骨棘が発達しているために可動域制限が高度になるのです。
このような症例で拘縮を解除せずに寛骨臼の操作に進むと、大腿骨を十分に排除できないので、リーミングの中心位置が偏心することがあります。
拘縮を解除する方法としては、①軟部組織のリリース と ②骨棘切除 があります。通常は①を中心に手術を施行しますが、骨増殖性OAの場合には②を優先するとスムーズに拘縮が解除できます。
特に坐骨部の巨大骨棘を切除することで、大腿骨の排除も容易になり関節の緊張も緩みます。まずは坐骨部の骨棘切除をターゲットにすると良いのではないかと思っています。
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人工股関節全置換術
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