先日、80歳台の肩関節前方脱臼の方が救急受診しました。単純X線像を確認すると、脱臼だけではなく大結節骨折も併発しています。
私は、肩関節脱臼の徒手整復に苦手意識を持っています(苦笑)。いろいろ試しますが、なかなか整復できないことが多いからです。
最近では、Stimson法を20~30分ほど施行して脱臼が整復されない場合には、あっさり麻酔科の先生に静脈麻酔を依頼します。
高齢者で筋肉量が少ない方でも徒手整復はあなどれません。患者さんは痛いので全力で脱臼整復を阻止する方向に力を入れます。
無理して徒手整復しようとすると、骨折を併発する危険性が高まります。一方、意識を取ると簡単に整復できるので、最も愛護的だと考えています。
我ながら全くリスクテイクしない安易な選択だという意識はあるのですが、卒後5年目ぐらいの時に、高齢者の肩関節脱臼で骨折を併発してしまったことがトラウマになっています。
問題点はいつも麻酔科医師にお願いできるとは限らないことです。斜角筋間ブロックや関節内ブロックを試したことがありますが、手技の問題かいずれもイマイチでした。
肩関節脱臼はそこそこ症例があるので、何か妙案がないかなと思っていますが、決定打が無いことが私の悩みです...。
整復
先日、足関節脱臼骨折(SE stage 4)の手術がありました。後果骨片が関節面の1/3以上を占めていると、基本的には解剖学的な整復位を獲得する必要があります。
しかし、後果骨片は整復することが比較的難しいです。これは内外果も骨折しているため、足関節が全体的に短縮していることが原因です。この場合、特に短縮の原因となるのは外果です。
このため、理論的には外果(内果は短縮にはあまり関係ない)を整復固定して足関節の脚長を回復すると、後果骨片の短縮も外果からのligamentotaxisである程度整復されるはずです。
しかし、特に外果を整復固定すると、プレートが邪魔になって後果骨片の関節面での整復状況を確認することができません。関節機能の再建が最優先課題のため関節面の確認は必須です。
このような事情から、SE stage 4では後果骨片の整復固定をまず施行することが多いと思います。内外果が未整復のためなかなか後果の整復は容易ではありません。
しかし、基本的に後果の転位は短縮のみなので、牽引力をかけて整復すればよいことになります。徒手的に踵部~足部を引っ張っても整復されないようなら、外果を展開するのも一法です。
外果骨折部を展開する過程で軟部組織が剥離されるため後果を整復しやすくなります。更に外果の背側から用手的に後果を触知できるため、指先で後果の整復を補助することも可能です。
このように足部牽引と外果背側からの用手的整復で関節面の高さを合わせた上で、前方からスクリューを刺入して骨片間に圧迫力を加えると後果の良好な整復位を獲得できます。
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AO法骨折治療
昨夜は今年最初の当直でした。信号待ちの際に飛び出そうとした2歳の女の子が、母親に腕を引っ張られてから痛がって動かさないということで受診しました。
典型的な小児肘内障の現病歴です。一応、骨折等の除外診断のために身体所見も診ておいた方が無難なので、肘関節周囲が腫脹していないことを確認しました。
痛くて不安で涙を浮かべた子供の肘を触りながら、「」どこが痛いのかな~」と橈骨頭を押さえて軽度屈曲・回内するとクリック触知で整復しました。今日も2~3秒程度で完了しました。
今日のママさんはとても美人で、「わあ、すごい!もう治ったんですか?」と真剣に驚いてくれたので、正月早々いい気分にさせてもらいました。今年も良い一年になりそうです(笑)。
肘内障整復をマスターするには動画を見るのが一番ですが、実はあまり良いのがありません。かなりオーバーアクションなのが残念ですが、一番良いと思われる動画を紹介しておきます。
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昨日の午前は、出張先での外来でした。
打撲による肘関節血腫の小学生の男児が受診しました。
かなり痛そうだったので関節穿刺を施行したところ、”気分が悪い・・・”と言い出しました。顔面蒼白で、いわゆる疼痛性の迷走神経反射です。迷走神経反射とは痛みや不安などが誘因となって、副交感神経である迷走神経の働きが優位になった状態です。
副交感神経である迷走神経が優位になると、心拍数が落ちて末梢血管が拡張するので血圧が低下します。このため嘔気や気分不良をおこしてしまうのです。このような場合には、診察ベッドに臥床させて下肢を挙上すれば速やかに症状は軽快します。
迷走神経反射は、骨折整復などの痛みを伴う処置を頻回に行う整形外科外来ではよく見かけます。私は橈骨遠位端骨折などの徒手整復の場合には、あらかじめベッドの上に患者さんを臥床させた状態で整復を施行します。こうすることで、迷走神経反射を併発しても嘔気や気分不良を自覚しないのです。
しかし、今回の関節穿刺は誤算でした。よもや関節穿刺程度で迷走神経反射を併発するとは思わなかったのです。たしかに男児は女児に比べて痛みに弱い傾向があるので、子供の場合には関節穿刺であっても臥床して施行する方が望ましいのかなと思いました。
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昨日の当直中に7歳男の子がスケート中に転倒して右手をついたとのことで救急受診しました。
単純X線像では右前腕遠位1/3での前腕両骨骨折でした。
橈骨は骨膜も破断しているようで骨片間の連続性がありません。末梢骨片は中枢骨片の背側にオーバーラップしており、約1cm程度短縮していました。幸い尺骨の骨折部は連続性が保たれていたので、徒手整復してギプスで保存治療を行うことにしました。
前腕両骨骨折で骨片間の連続性が無い場合には整復固定が難しいです。救急では十分な麻酔を効かすことが難しいため、整復操作も一度でキメなければいけません。また、単に引っ張るだけでは中枢骨片を乗り越えることができないため、末梢骨片を一旦強制的に背屈させて中枢骨片に乗せてから、細かい整復を行いました。
なんとか2/3程度は橈骨骨折部が接触している状態にまで整復できたので、上腕からのギプス固定を行いました。仮骨をはっきり確認できるようになる2週間程度は慎重に経過観察する予定です。
小児であっても前腕両骨骨折では整復位の獲得および維持が難しいため、手術(ピニング)を行うことが多いと思います。以前、出張先の病院で苦労して整復固定したのに、翌週行くと保存治療では不安だからという理由であっさりピニングされていてがっかりしたことを覚えています。
治療方針はドクターそれぞれ違うと思いますが、私は小児に関しては前腕両骨骨折であっても可能な限り保存治療でがんばろうと思っています。
※ 中学生以上の前腕両骨骨折は、ほぼ骨折観血的手術の適応です。
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