Medical Tribune 2014年10月2日号に興味深い記事がありました。「広島土砂災害でも避難所環境がDVT発症に影響」です。以下、Medical Tribuneからの転載です。
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東日本大震災では新潟大学大学院呼吸循環外科講師の榛沢氏らの調査により避難所の雑魚寝状態や仮設住宅での長期滞在が深部静脈血栓症(DVT)発症に影響することが示された。
今夏発生した広島土砂災害においても災害発生から1〜2週間超で避難所の被災者にDVTが発症したが、避難所の形態によって発症率に差があり、環境整備の重要性が増した。
DVTは摂取水分の不足によっても影響を受ける。トイレの数が不十分であったり、夜中に他の人を起こしたくないなどの理由で,水分摂取を控えた被災者にDVTが認められた。
榛沢氏は「避難所=雑魚寝という構図がすっかり刷り込まれている。雑魚寝状態が被災者の血栓症リスクになると訴えたが、東日本大震災の教訓も生かされていない」と危機感を募らせる。
海外では支柱がアルミ製のしっかりした簡易ベッドが用いられているようだが、値段が高く備蓄場所を要する。一方,同氏が普及を推進しているのが安価な段ボール製の簡易ベッドだ。
段ボールは軽量だが強度に優れており,簡単に組み立てられる。また,短期間で生産できるため備蓄の必要がなく,急な災害への対応にも適している。
避難環境と健康障害との関連性を踏まえ、良い避難所・仮設住宅をつくる発想の転換が必要だとし、医療従事者にも環境整備の重要性を国民に知ってもらう努力が求められると述べた。
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これは興味深い報告だと思いました。中越地震の際にも報告されましたが、やはり大規模災害は、深部静脈血栓症(DVT)発症に影響するようです。
そして、深部静脈血栓症(DVT)発症を予防するためには、避難環境と健康障害との関連性を踏まえて、良い避難所・仮設住宅をつくる発想の転換が必要とのことは目から鱗でした。
避難所や仮設住宅の設営や確保は行政の仕事だと思っていましたが、専門外の人に任せていると深部静脈血栓症(DVT)の存在さえ顧みられない可能性があります。
少なくとも、避難所==雑魚寝という構図は早急に改善するべきでしょう。新潟大学の榛沢講師がおっしゃられるように、安価な段ボール製の簡易ベッドの普及も対策のひとつだと思います。
大規模災害を事前に予測することも防ぐことも不可能なので、せめて発生した場合の対策だけでもしっかりと立てておきたいものです。
もちろん、これは個人の対策も含まれるので、今度の休日にでも避難用のグッズや災害時の避難場所等をもう一度再確認しようと思いました。
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深部静脈血栓症
Medical Tribune Vol.45, No.50で、深部静脈血栓症(DVT)および肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism: VTE) に関する記事がありました。
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急性期DVTには下大静脈フィルター(VCF)によるVTE予防が有用
第53回 日本脈管学会
福島県立医大心臓血管外科の若松大樹先生の発表です。
・ DVTの積極的治療はカテーテル中心だが、EBMが不十分との指摘がある
・ 今回、DVTへのカテーテル血栓溶解療法(CDT)や下大静脈フィルター(VCF)の成績を検討した
・ CDT 36例と全身性血栓溶解 72例の比較では、血栓縮小率が良好だったのはCDT群で75%、全身性血栓溶解群が25%と、有意にCDT群の成績が良好であった
・ VCFは永久留置型を72例、一時留置型を40例に用いた
・ 一時型の挿入期間は5.0±4.7日(4~12日)で、血栓捕捉率は13%だった
・ VCF群のVTE非再発率は一時型100%、永久型95%だった
・ ガイドラインでは、一時型の適応を数週間で急性VTEが予防できればよいとしているが、福島県立医大では1~2週間の範囲で考えている
・ VCFはVTE予防に効果的で、特に急性期DVTでは一時型が有効だった
・ CDTの適応はより限定されてきている
・ 急性期DVTの侵襲的な治療時にはVCFによるVTE予防が不可欠
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DVTやVTEは整形外科医にとっても、非常に関心の高い領域です。ただ、整形外科医がカテーテルを挿入して治療するわけではないので、いまひとつ具体的に治療法をイメージできていませんでした。
近位型DVTは頻度的に少ないため下大静脈フィルター(VCF)に至る症例はあまり多くないですが、急性期の近位型DVTでは一時型下大静脈フィルターが推奨されているようです。
※ 私の運営しているホームページでVTEについてまとめています。
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE) その2 のつづきです。
深部静脈血栓症は,発生部位(頸部・上肢静脈,上大静脈,下大静脈,骨盤・下肢静脈)により症状が異なります。
静脈血栓は,膝窩静脈より末梢側では,数日から数週で消失するものが多いです。
しかし,膝窩静脈より中枢側では1年以内には約半数が退縮するが、消失するものはまれで索状物として残存します。
骨盤・下肢静脈の深部静脈血栓症では,病型は膝窩静脈から中枢側の中枢型(腸骨型,大腿型)と、末梢側の末梢型(下腿型)を区別します。
急性期の症候の発現には、血栓の進展速度と静脈の閉塞範囲が関与します。急性静脈還流障害として中枢型では三大症候である腫脹・疼痛・色調変化が出現します。
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE) その4 へつづきます。
師長さんから人工関節置換術後の肺塞栓症について、病棟勉強会を開いてほしいという要望がありました。せっかくまとめたので詳述します。
まず、人工関節全置換術後の合併症として、
① 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)が発生して、この塞栓子(血栓)が肺にとぶことで
② 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)が発生します。
肺血栓塞栓症+深部静脈血栓症は、連続した病態であるという考え方から、
これらを合わせて静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)と呼びます。
※ 肺血栓塞栓症+深部静脈血栓症=静脈血栓塞栓症
リスクレベルは下記のごとくです。
THAやTKA術後は、自動的に高リスク群となります。
VTEの発生率です。
致死性PTEの発生率が意外なほど高いのが印象的です。
日米の人種差なのでしょうか?
第7回ACCPガイドラインより改変
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE) その2 につづく
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