東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センターの山中寿教授の「臨床研究から得られるエビデンスは必ずしも日常診療における真理ではない」という寄稿文をご紹介します。
山中教授は、言わずと知れたわが国の関節リウマチ研究の第一人者です。関節リウマチ患者を対象にした前向き調査であるIORRAが山中教授の代表的な実績です。
山中教授は、Randomized Controlled Trial(以下、RCT)の臨床研究結果を見るたびに、日常診療の経験とは何か違うという違和感をずっと感じてきたそうです。
ほとんどのRCTは有意な結果を出すために選択基準や除外基準を設けています。したがって、RCTに組み入れられる症例は、日常診療の患者さんと異なる集団である可能性があります。
そこで、IORRAの対象患者さんで調査したところ、除外基準を満たさない患者さんは何とわずか5%にも満たないことが判明しました。大多数の患者さんは脱落してしまうそうです。
つまり、臨床研究から得られるエビデンスは科学的真実ではあるが、必ずしも日常診療における絶対的真理ではないということです。
臨床研究の結果は、その試験に適合する患者さんだけのものであって、日々受診する多くの患者さんには必ずしも当てはまらないのです。実際、エビデンスには多くの落とし穴があります。
例えば治療Aと治療Bを比較する臨床研究の結果、治療Aは有効80%、無効20%、治療Bは有効50%、無効50%だったとします。この場合、治療Aの方が「優れている」と判断されます。
しかし、治療Aが優れているから100%の患者さんに治療Aを行うことが正しい医療でしょうか?治療Aでも20%は無効ですし、治療Bでも50%は有効です。
患者さんによっては治療Bのみが有効というケースもあります。医療は民主主義ではなく、治療方針は多数決で決めるものではありません。
日常診療はカオスであり、臨床研究の結果(=多数決)だけが治療方針を決めるものではありません。個々の患者さんの状態に応じて決めるべきものです。
このような想いで、山中教授は関節リウマチ診療ガイドライン 2014
の作成に、分科会長として参画したそうです。一方、医療訴訟では診療ガイドライン(=多数決)が絶対視されています。
医療訴訟の際には、山中教授などの診療ガイドラインを作成される先生方の想いを汲んで、もう少し医療の不確実性を勘案した司法判断を実践していただけるとありがたいですね。