Medical Tribuneで興味深い記事がありました。
遺伝子検査受けても生活習慣は変わらず です。
遺伝子検査を受ければ,自分に肺がんや心臓病などの疾患発症リスクがどの程度あるかを知ることができる。しかし,英・University of CambridgeのGareth J. Hollands氏らは,遺伝子検査が行動に与える影響を検討した研究のシステマチックレビューとメタ解析の結果,検査後にリスクを減らすような生活習慣(禁煙,健康な食事,運動など)に変わったというエビデンスは得られなかったとBMJ(2016; 352: i1102)で報告した。
18件7項目の行動変容のメタ解析
心疾患やほとんどの悪性腫瘍,糖尿病などは複合疾患(complex disease)と呼ばれ,単一の遺伝子異常が原因となるのではなく,数十~数百の遺伝子の相互作用と個人の環境因子・行動が複合的に影響して発症する。
ゲノム配列解析の進歩により疾患リスク遺伝子の検査を簡便に受けられるようになったが,そうした検査には賛否両論がある。反対派は,遺伝子変異の保有が必ずしも疾患発症に結び付くとは限らないと指摘し,賛成派は,検査により情報を得た上で自分の行動を変えるか否かの判断を下せると主張する。
消費者に遺伝子検査を直接提供するサービスは,2000年代初めに始まり,カナダや英国,欧州では現在も継続されているが,米食品医薬品局(FDA)は,2013年にそうしたサービスの停止命令を出し,最近になって一部の疾患遺伝子の検査に対してようやくあらためて直販の承認が出された。
今回の研究では,まず,成人を対象としたランダム化比較試験もしくはそれに準じた方法の研究で,行動変容によりリスク低減の可能性がある疾患に関して割り付け群のいずれかが個人向けDNA検査によるリスク評価を受けており,リスク低下をもたらす行動について評価指標を用いて評価している研究をMedlineやEmbaseなどで検索。1万515件の研究を検討して,最終的に18件7項目の行動評価項目についてシステマチックレビューとメタ解析を行った。
行動変容の内訳は,禁煙(6件の研究,2,663例),食事の変更(7件,1,784例),運動(6件,1,704例),飲酒(3件,239例),薬物使用(1件,162例),日焼け防止(1件,73例),検診受診や行動変容支援プログラムへの参加(2件,891例)である。
いずれの行動評価項目にも影響なし
メタ解析において,遺伝子検査群と非検査群の差は,禁煙がオッズ比(OR)0.92(95%CI 0.63~1.35,P=0.67),食事が標準化平均差(SMD)0.12(同−0.00~0.24,P=0.05),運動がSMD −0.03(同−0.13~0.08,P=0.62),飲酒がSMD 0.07(同−0.20~0.35,P=0.61),薬物使用がOR 1.26(同0.58~2.72,P=0.56),日焼け防止がSMD 0.43(同−0.03~0.90,P=0.07),検診受診や行動変容支援プログラムへの参加がSMD −0.04(同−0.20~0.11,P=0.59)であり,いずれの項目でも有意ではなかった。
同様に,高リスク遺伝子型を保有するサブグループの解析や,行動を変えようという意志についての解析でも有意な影響は認められなかった。 一方で,遺伝子検査結果を知らせても,うつ症状や不安の発現などの有害な影響も認められなかった。
医師が検診や介入の方法を判断するには有用
Hollands氏らは「対象研究の多くはバイアスが存在する可能性が高いか,もしくは不明であり,エビデンスの質は概して低い」と断った上で,「遺伝子検査に基づく疾患リスクを個人に知らせることで,行動変容を引き起こせるという期待は,現時点ではエビデンスにより支持されていない。
今回の知見は,リスク低減行動を引き起こせるという理由で,一般的な複合疾患に対する遺伝子検査を使用することや,高リスク遺伝子変異を検索することを支持していない」と結論付けている。
一方で,同氏らは,こうした遺伝子検査の有用性について「臨床医が単独または他の疾患リスク評価法との併用で最もリスクが高い人を同定し,検診や手術,薬剤治療などの標的を絞り込んだ介入を行うのには役立つだろう」と説明している。
疾患リスクを本人に伝える他の方法(例えば,喫煙者に呼気中の一酸化炭素濃度や肺機能に基づく"肺年齢"を伝えるなど)においても,健康に良い行動変容を引き起こす効果は弱いことがこれまでの研究で分かっており,同氏らは,遺伝子検査に関する今回の知見もそうしたエビデンスと一致している,と付け加えている。
これは、とても興味深い話ですね。さらっと聞いただけなら「遺伝子レベルでのリスクがあるのに生活習慣を変えることができないのは意志が弱いなぁ」と思ってしまうかもしれません。
しかし、実際に自分が遺伝子検査で肝癌リスクが高いことが分かっても、お酒の量を減らせるのか? と考えると、効果は1ヵ月も続かないだろうと自信を持って言えます(笑)。
う~ん、私も意志の力が弱そうです。遠い将来の不確定なリスクよりも、現在の確定的な享楽を選択してしまうのはヒトとしての悲しい性なのでしょう。
アンジェリーナ・ジョリーのように乳癌予防のために両乳腺切除手術を受けるのは、単発のイベントなので踏ん切りがつきますが、生活習慣改善は長期戦なので実践が難しいのでしょう。
最後に遺伝子検査結果を知らせてもうつ症状などの有害な影響も認められなかったというくだりには救われた気がします。それなら遺伝子検査を受けるのも悪くないかもしれませんね。